・BONIQ設定
・材料
・比較実験
・比較実験結果
・作った感想
子供から大人まで魅了してやまないチョコレート。私はもちろん好きである。その昔パリにいた頃に、「サロン・デュ・ショコラ※」の祭典に行って、ショコラティエの数々の優美なチョコレートに感動したし、もちろん日本でも専門店などの極上のチョコレートを買ってきて食べると、この上ない幸せが訪れる。この世にこんなに美味しいものがあったのかと思う。一種の麻薬のようなものである。
※サロン・デュ・ショコラ(Salon du Chocolat):毎年パリで行われる、世界最大級のチョコレートの祭典。しかし、チョコレート菓子を自分で作るのは苦手意識がある。なぜなら、扱いが本当に難しい。
というのはその昔料理学校の授業で、チョコレートを溶かしたら唇の下に当て、感覚で温度を確かめるという作業をやっていた(注:イギリスにあるフランス料理の学校にて。そこまで太古の大昔ではないはず、、、当時も温度計は当たり前にあったが、唇の下で温度を測っていた)。それが難しすぎたし、上手く扱わないとあちこち汚れるし、「チョコレートは大変」ということがインプットされたから苦手意識があるのだと思う。
今ではおそらく、レストランやお店のほとんどが温度計や低温調理器や大規模になるとテンパリングマシン(チョコレート温度管理マシン)で管理されているのではないだろうか。
チョコレートはとても難解で繊細で扱いが難しいがゆえに、チョコレート専門のプロ、「ショコラティエ」という職人が存在する。チョコレートを溶かして温度を調節し、良い状態にする作業を「テンパリング」と言う。
家庭でちょっとチョコレートのお菓子を作ろうと思ってテンパリングについて調べたりするならば、本当にややこしい。また、チョコレートの種類(いろいろある!)によって、温度が違うとなるとさらにややこしい。「テンパリング」を簡単に言うと、買ってきた「とりあえず固められたチョコレート」を、「溶かして良い状態に整えて固め直す」ということ。
「ごちゃごちゃに入ったクローゼットの中身を一度取り出して、必要なものを整理整頓して入れ直す」のに似ている。テンパリングを行うと、冷やし固めたチョコレートは、
・美しいツヤが出る
・口溶けが良くなる
・パキッと割れる
・美味しくなる
・「ブルーム現象(表面に脂肪や砂糖が出て白い粉がふいた状態)」が起こらないという。
そのテンパリングにもいろいろなやり方があるが、BONIQの「【バレンタイン】簡単タブレットチョコレート」で紹介する方法は、
1)チョコレートを耐熱袋に入れてBONIQ「50℃」の湯せんで溶かす。
2)袋を取り出して揉んで「28℃」まで下げる。
3)余熱の残る湯せんに袋を浸けて「31℃」まで上げる。
4)冷やし固める。家庭で行うにはとても便利な方法である。BONIQでもテンパリングができるのである。
お店では職人によりチョコレートは厳密にテンパリングされるが、おうちで作る場合、本当にテンパリングを行う必要はあるのだろうか?
ひと手間省いてテンパリングをしなかった場合とBONIQで行った場合、仕上がりはどれほど違うのか?案外、家庭で食べる分にはしなくても許容範囲ということでいけるのではないか?2月のバレンタインデーになると、小中学生の子供でもお家でチョコレートを作って、好きな子に渡したりするのは甘酸っぱいし、友達や家族に渡すのもきっと喜ばれる。大人になれば、職場ではチョコレートのやりとりは面倒になるから禁止!という声も今では多いと聞くが、時代ならではだと思う。
そこで思うのは、、、世の中の子供たちはとてもじゃないがテンパリングなどしていないに違いない!(大人が作る場合はどうか・・・?)
それでもこのイベントは長年に渡って日本で続いてきたことを考えれば、案外、テンパリングなしでも簡単にチョコレートは美味しくできるのではないか!?
BONIQでテンパリングしたものはどれほど仕上がりが違うのか?そこで以下の4つを検証してみる。
実験1. 何もしない:買ってきたクーベルチュールチョコレート(※)のまま
実験2. テンパリングしない:BONIQ40℃ 30分(低温の湯せん)で溶かす→冷やし固める
実験3. テンパリングしない:BONIQ60℃ 30分(高温の湯せん)で溶かす→冷やし固める
実験4. テンパリングする:BONIQ50℃ 30分で溶かす→28℃まで下げる→31℃まで上げる→冷やし固める※クーベルチュールチョコレート:カカオバターなどの成分が国際規格を満たした製菓用チョコレートのこと。
BONIQ設定
実験2. 40℃ 0:30(30分)
実験3. 60℃ 0:30(30分)
実験4. 50℃ 0:30(30分)材料
<実験1>
・クーベルチュールチョコレート(スイート) 数個<実験2〜4>
・クーベルチュールチョコレート(スイート) 各80g<ほか、調理器具など>
・ハサミ
・型
・温度計
《手順》
比較実験
<実験1>
何もしない。
<実験2>
耐熱袋にクーベルチュールチョコレートを入れ、BONIQで40℃ 0:30(30分)低温調理して溶かす。袋の片方の角をハサミで切り取って絞り袋にし、型に入れて冷蔵庫で冷やし固める。
<実験3>
耐熱袋にクーベルチュールチョコレートを入れ、BONIQで60℃ 0:30(30分)低温調理して溶かす。袋の片方の角をハサミで切り取って絞り袋にし、型に入れて冷蔵庫で冷やし固める。
<実験4>
耐熱袋にクーベルチュールチョコレートを入れ、BONIQで50℃ 0:30(30分)低温調理して溶かす。
袋を取り出して口を開け、温度計が28℃になるまで3分程袋の上から手で揉んでチョコレートを混ぜる。
余熱の残る湯せん(約47℃)に袋を5秒(※)浸け、袋を取り出して混ぜ、チョコレートが31℃になるようにする。
袋の片方の角をハサミで切り取って絞り袋にし、型に入れて冷蔵庫で冷やし固める。
※「【バレンタイン】簡単タブレットチョコレート」動画内では余熱の残る湯せんに浸ける時間を「1分程」と紹介しているが、1分浸けるとかなり温度が上がってしまうので、実際は「5秒」とする。
作業中はチョコレートの中に水気が入らないよう、注意して行う。
<BONIQセット時>
※肉、魚(生食用を除く)は種類と厚みに応じて加熱設定を変更する。参照:「低温調理 加熱時間基準表」
※食材全体がきちんと湯せんに浸かるよう、十分な水量を用意する。
※高温・長時間調理時は蒸発による水位減少を防ぐため、最大水量を用意する。
<BONIQ投入時>
※袋内に気泡が残らないよう湯せんに入れながらしっかり空気を抜き、密封する。(参考:動画「低温調理用バッグの密封方法」、記事「ベストなバッグ密封の仕方 比較実験」)
※食材全体が湯せんに浸かるようにする。浮いてくる場合は、
・BONIQ 低温調理コンテナ:コンテナラック、トレーを使用して完全に沈める。
・鍋:耐熱性の瓶や重しを乗せて完全に沈める。
※高温・長時間調理時は、湯せんにカバーをして水位減少を防ぐ。
・BONIQ 低温調理コンテナ:コンテナルーフを使用する。
・鍋:ラップを使用する。
・BONIQ 低温調理用耐熱袋「BONI BAG」(湯せん、冷凍、冷蔵可能)はこちら
・BONIQ 低温調理コンテナ&コンテナアクセサリー(ラック、トレー、フタ、ジャケット)はこちら
・BONIQ 深型ホーロー鍋はこちら
比較実験結果
まずは見た目から。
実験1は何もしていないので当たり前だが、そのまま。ツヤはない。
実験2「40℃で溶かして固める」と実験3「60℃で溶かして固める」はきちんとツヤがある!実験3は「60℃」と高温で溶かしたのに、分離することなくきれいに出来ている。やはりテンパリングしないでも出来るのでは?と期待できる!
実験4「テンパリング:50℃で溶かし、28℃に下げ、31℃に上げ、固める」はさすがに一番ツヤがある!美しい。実験2や3がきれいに仕上がったのであまり差が出ないかと思ったら、やはりそのツヤツヤ感は抜きん出ていた。
と程なくして、様子が変わってきた。。。
たった5分ほどで実験2と3が溶け出した(室温24℃)。チョコレートのツヤがなくなり出し、溶けてきた。皿に接している面がもう溶けている。
実験1と実験4は見た目の変化は無い。
食べてみる。
実験1は口に入れた瞬間は味を感じにくいが、溶けてくるにつれてチョコレート感を発揮してきて美味しい。見た目は良くないが、味はきちんと美味しい。
実験2と3は違いが分からないくらい同じ。持ち上げると手にベタっと付く。半分溶けていてやわらかい。ねっとりクリーミーで美味しい。溶けているのでその分、口の中からサーッといなくなるのも早い。冷蔵庫から出したてのものでも口の中で早く溶ける。24℃の室温では溶けてきたが、21℃ならツヤはなくなったが溶けなかった。
実験4は、持ち上げても手に付かず、溶けていない。骨格がしっかりしている。口に入れると徐々に溶けてきて、長く口の中に残り、その余韻がかなり長く楽しめる。
実験2「40℃で溶かして固める」と実験3「60℃で溶かして固める」は、おうちで作っておうちで食べる場面ならとても美味しいし、全くOK。ただ、室温でも5分程で溶けてくるので、「すぐ食べる」か「ちょっと寒い部屋で食べる」か「多少溶けてきても目をつぶる」とすればOK。
ただ、これをラッピングなどして誰かに渡すとなると話は別。バレンタインの2月の外は寒いが、暖かい部屋に持って入ったりするとすぐに溶けてくる。ラッピングされた中で溶けて箱や袋に張り付き、見た目が悪くなる可能性がある。それをまた冷蔵庫に入れたりすると状態も変わるし、一度溶けたチョコレートを再び冷やすと、ブルーム現象(表面に脂肪や砂糖が出て白い粉がふいた状態)が起きる可能性がある。
実験4「テンパリング」したものはさすが、口の中ではゆっくり溶けるが室温では溶けない。状態が安定している。ラッピングして外に持ち出しても問題ないだろう。暑いところに放置されない限り、口に入るまで美しい見た目で良い状態を保てるのではないだろうか。
「テンパリング」について、チョコレートを溶かすと30℃を超えると溶けるのでちゃんと溶けたように見えるが、実はカカオバターの中の脂肪はまだ溶けきっていない状態である。脂肪の結晶には数種類あるのだが、これらの結晶を全て残らず溶かすために、まず「45〜50℃」で温める必要がある。
それから「27〜29℃」まで下げると、2種類の脂肪の結晶ができる。それをさらに「31℃」に上げて、2種のうち不要な方の結晶を再度溶かすと、必要な1種類の結晶だけが残る。そうすることでチョコレートが整い、これを冷やし固めることでテンパリングが終了する。
注:
これらの温度は「スイートチョコ」の場合。他のミルクチョコやホワイトチョコでは若干温度が異なる。
ミルクチョコの場合:「40〜45℃」→「26〜27℃」→「28〜29℃」
ホワイトチョコの場合:「40〜45℃」→「25〜26℃」→「26〜28℃」
先述のクローゼットの例に例えるなら、温度1段階目「45〜50℃」でクローゼットから物を全部取り出してみる、2段階目「27〜29℃」で大切な2つに絞り、3段階目「31℃」で最も必要な1つを残し、「冷やし固める」で整えられたものをまたクローゼットに戻す、といったイメージである。
以上の実験から、
実験2「40℃で溶かして固める」と実験3「60℃で溶かして固める」はツヤはなくなるが、家で冷蔵庫から出して「すぐに食べる」か「21℃以下の室温で食べる」分には美味しい。
人に渡すためなど持ち歩き、温度変化にさらされる場合は、実験2と3ではリスクが高い。実験4「テンパリング」した方が、見た目もツヤツヤ美しく、良い状態で渡せることは間違いない。
参考文献
・富澤商店、チョコレートのきほん 失敗しないテンパリング方法、2025/1/17参照
https://tomiz.com/contents/valentine_prime3
・cotta、チョコレートのテンパリング 基本ガイド、2025/1/17参照
https://www.cotta.jp/special/event/valentine/tempering.php?srsltid=AfmBOooZIySpYOalA4Rm9EUKupYfislsXSnlqqdz3gOCf-6AhAVijxCL
・日仏料理協会、フランス 食の事典、白水社、2001、p.386
・スチュアート・ファリモンド、料理の科学大図鑑、河出書房新社、2019、p.239
・富澤商店、クーベルチュールチョコレートとは?一般的な板チョコとの違いを徹底比較、TOMIZAWA SHOUTEN Column、2025/1/17参照
https://tomiz.com/column/couverture-vs-chocolatebar/
・株式会社だいすきラボ、「サロンデュショコラ」本場パリへ行ってみた!参加レポート、チョコレート大事典、2025/1/16参照
https://chocolate.bishoku.info/event/salon-du-chocolat-paris/
・EVENT international、Salon du Chocolat、2025/1/17参照
https://www.salon-du-chocolat.com/?lang=en
《作った感想》
今回の実験でテンパリングしたものとしていないもので、チョコレートが全く違うものになることが分かりました。
おうちで作っておうちで食べる分には、分離さえさせなければ大丈夫だと思いますが、持ち歩いたりして人にあげる場合には、やはりテンパリングが必要だと思います。ツヤツヤになったチョコレートは本当に美しい!
BONIQを使えばきっと上手く行きます。
ぜひ挑戦してみてください。
質問・疑問・要望・作った感想をコメントいただけたら嬉しいです^^
【注意】
低温調理では高温による殺菌ができないため、食の安全に留意する必要があります。
レシピ記載の温度・時間設定をご参考いただき、例として大きく温度設定を変更するなどはされないようご注意ください。
なお、レシピ記載の設定をお守りいただいた上であっても、食材や調理環境などによっても安全面のリスクが異なるため、最終的には自己責任となりますことご了承ください。
取扱説明書や低温調理ガイドブック、各種の低温調理における情報などをご覧いただいた上で、安全に配慮した調理をお願いいたします。詳細はこちらの【低温調理のルール 〜6つのポイント〜】を参照くださいませ。
また食中毒に関して、下記のサイトもご一読ください。
特にお年寄りやお子様、免疫力の弱っている方は当サイト推奨温度設定に従わずに、下記厚生労働省サイトの指示に従い全てのお肉で【中心温度75℃ 1分以上】の加熱をしてください。
→ 食肉に関する注意点:厚生労働省 食中毒予防
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