BONIQマニアにおくる、低温調理の疑問あれこれの検証。
日々低温調理をしていると、食材がこんなに美味しくなるのか!という感動がある一方、本当にこれで良いのか?もっとベストな方法があるのではないか?という疑問も同時にわいてくる。
最近では低温調理のメソッドに関する情報が増えつつあるが、それが本当に正しいのか?
実際調理をする中で出てきた疑問を検証してみる。「ホールディング」とは「調理した塊肉を、それ以上調理が進まないような温度で“保温”しておくこと」だが、例えばレストランなどでオーダーが入れば温かい状態ですぐサーブできるように、ローストビーフなどに使われる手法である。
ところがこの「ホールディング」には「保温」だけでなく、なんと「肉を柔らかくし、旨みをアップさせる」すなわち「肉の熟成」の効果があるとも言われている。「肉の熟成」とは「温度や湿度を完璧にコントロールし、肉を腐敗させずに微生物の働きよって旨みを引き出し肉を柔らかくすること」であるがこれには数十日もかかるという。前回、「ホールディングは有効?比較実験 ~牛もも編~」にてホールディングが肉の熟成と同様の効果があるのかを牛もも57℃で検証したが、「4時間15分」よりも「12時間」、さらに「24時間」で旨みがアップすることが確認された。
しかし・・・時間が長くなるにつれどんどんドリップが流出し、パサつきが出てしまった。
これではホールディングは有効とは言えない。そこで今回はさらに低い温度の55℃で、長時間のホールディングでもドリップの流出を抑えられ、かつ旨みがアップすると仮定し検証を行う。前回のリベンジ編である。
オーストラリア産牛もも(厚さ4cm)を使い、
実験①BONIQ(55℃ 6時間10分)→ バッグに塩を入れて肉に含ませる
実験②BONIQ(55℃ 12時間)→ バッグに塩を入れて肉に含ませる
実験③BONIQ(55℃ 24時間)→ バッグに塩を入れて肉に含ませる①は4cmの厚さの牛肉を55℃で低温調理する場合に安全レベルまで加熱殺菌できる時間である。(※前回は57℃で行ったために4時間15分であった。)
この時、塩を入れるタイミングは低温調理後にバッグに塩を入れて肉に含ませることとする。(「58℃ ローストビーフ低温調理 塩投入比較」参照:「低温調理後、塩をバッグに入れて含ませる」が一番歯切れがよく、ジューシーであるという結果になった。)
ホールディングに効果があるとすれば①よりも②、③と時間が長くなるにつれて肉が柔らかくなり、旨みがアップするはずである。BONIQ設定
55℃
実験①6時間10分
実験②12時間
実験③24時間参照:低温調理 加熱時間基準表
材料
<実験①~③>
・牛もも肉(オーストラリア産) 各1本(厚さ4cm/ 180g)
・塩 各1.6g(肉の重量の約0.9%)
《手順》
比較実験
すべて同じ大きさ、厚さに整えた牛もも肉を
実験①BONIQ(55℃ 6時間10分)
実験②BONIQ(55℃ 12時間)
実験③BONIQ(55℃ 24時間)
BONIQの終了タイマーが鳴ったらそれぞれバッグを開けて塩を入れ、肉に含ませ冷却する。(1時間)
その後比較試食を行う。
比較実験結果
まずドリップの量を比べてみると、
実験①BONIQ 6時間10分:29g
実験②BONIQ 12時間:30g
実験③BONIQ 24時間:40g
実験①と②は時間がかなり違うにもかかわらずほぼ同じ。ところが実験③は40gとずいぶんドリップが流出した。
次に試食すると、
実験①:間違いなくしっとりとジューシー。みずみずしくフレッシュで肉肉しい。一番噛み応えがある。
実験②:①より旨みがアップしている。パサつきはなく、程よい嚙み応え。全てにおいて①と③の中間。
実験③:①②よりも明らかに旨みがアップしており、その旨みには丸みがある。パサつきはなく、一番柔らかく歯切れが良い。
「③24時間」が一番ドリップの流出が多く、仕上がりの見た目もひと回り小さくなっていたため、またパサつくのでは?と予想したが、全くそんなことはない。なんと言っても一番柔らかく歯切れが良い!旨みは格段にアップしている!やや歩留まり(仕上がりの量)が減ったのが難点だが、それを凌ぐほどホールディングの効果があったと言える。
前回の57℃で行った実験「ホールディングは有効?比較実験 ~牛もも編~」ではホールディングの時間が長くなるにつれパサつきが出てしまったが、今回の55℃では「③24時間」が断然美味しいと思う。
さらに1日経ってからもう一度試食してみたが、①~③の違いがより大きくなった。
まとめると
柔らかさ:③24時間 > ②12時間 > ①6時間10分
しっとりさ:① ≒ ② ≒ ③
旨み:③ > ② > ①
総合的な美味しさ:③ > ② > ①
でも③は一番ドリップが流出しているではないか、と疑問があると思うが、ドリップをテイスティングしたところ①が一番塩味が鋭く、③が一番まろやかで旨みが感じられた。すなわち、この美味しいドリップはソースとして皿の上に戻してやるのが一番得策だと思う。
「ホールディングは肉を柔らかくし、旨みをアップさせる」という説は「牛ももを、55℃ 24時間」では成立すると言える。
《作った感想》
今回の牛ももを使った55℃実験では「③24時間」がジューシーさを失わず、一番柔らかく歯切れも良い、そして断然旨みがアップしていました!明らかに55℃でのホールディングは有効という結果になりました。
さらに長時間のホールディングではどうなるのか?鶏や豚など他の肉ではどうなるのか?
さらなる低温調理の可能性を探るべく、次の実験に取り組みたいと思います。
<ホールディングは有効か?牛もも編 比較実験シリーズ>
ホールディングは有効?比較実験 ~牛もも編~
ホールディングは有効?比較実験~牛ももVo.2~
ホールディングは有効?比較実験~牛ももVo.3~
質問・疑問・要望・作った感想をコメントいただけたら嬉しいです^^
【注意】
低温調理では高温による殺菌ができないため、食の安全に留意する必要があります。
レシピ記載の温度・時間設定をご参考いただき、例として大きく温度設定を変更するなどはされないようご注意ください。
なお、レシピ記載の設定をお守りいただいた上であっても、食材や調理環境などによっても安全面のリスクが異なるため、最終的には自己責任となりますことご了承ください。
取扱説明書や低温調理ガイドブック、各種の低温調理における情報などをご覧いただいた上で、安全に配慮した調理をお願いいたします。詳細はこちらの【低温調理のルール 〜6つのポイント〜】を参照くださいませ。
また食中毒に関して、下記のサイトもご一読ください。
特にお年寄りやお子様、免疫力の弱っている方は当サイト推奨温度設定に従わずに、下記厚生労働省サイトの指示に従い全てのお肉で【中心温度75℃ 1分以上】の加熱をしてください。
→ 食肉に関する注意点:厚生労働省 食中毒予防
最新記事 by 小野寺 桂子 (全て見る)
- 低温調理のルール 〜6つのポイント〜 - 2020年6月3日
あるレストランで出て来た食べたことのないようなローストビーフが出て来て、アイルランドの肉を56度12時間やったと聞いたので、国産牛のシンシン、シキンボウ等でやってみました。赤身ながら、少しはサシが混じっていて、ジューシーさもほしいという考えでしたが、ややサシの入ったシンシンを薄く切った時が一番よかったような気がします。実験ではオーストラリアの赤身で統一されていましたが、部位や個体の違いによって結果は驚くほど違ってきますね。赤身じゃないとローストビーフじゃないのか、その辺はよくわかりませんが。
コメントありがとうございます。
実験でオーストラリア産を使用しましたのは、スーパーでも購入できるのでどなたでも簡単に手に入りやすいという理由と、国産などに比べても安価なオーストラリア産で、どこまで柔らかく旨味をアップさせ美味しく仕上げられるのか?という意味もあり、オーストラリア産を使用しました。
細かく分けられた部位でやられたのですね。大変興味深いです。確かに同じ牛肉でも産地や部位によって、元々の固さやサシの入り具合が違いますね。
単に温度が低ければ良いかと言うと、そう言うわけでもありません。今後さらに踏み込んで、他の部位も温度比較を行ってまいりたいと考えております。(メジャーな部位からにはなりますが!)