鶏肉レシピ

60℃~ 鶏もも肉の火入れ 温度時間比較実験

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BONIQマニアにおくる、低温調理の疑問あれこれの検証。

日々低温調理をしていると、食材がこんなに美味しくなるのか!という感動がある一方、本当にこれで良いのか?もっとベストな方法があるのではないか?という疑問も同時にわいてくる。
最近では低温調理のメソッドに関する情報が増えつつあるが、それが本当に正しいのか?
実際調理をする中で出てきた疑問を検証してみる。

「鶏もも肉」、それは最も身近な食材の一つであるが、低温調理において筆者自身がまだ仲良くなり切れていない食材の一つでもある。例えば「鶏むね肉」であれば設定60~63℃あたりで間違いないものが出来ると確信があるが、鶏もも、特に”鶏もものステーキ”となるとまだこの温度がベスト!と言い切れないのである。
例えば60℃で調理した場合、柔らかくてジューシーなのは間違いないが、“ぐにゃっとした食感”があり、本当に火が入っているのか?とやや不安になりさえする。(もちろん、きちんと肉の厚さに対する設定時間を守れば、加熱殺菌はされている。)
もっと設定温度を高くすると、肉のタンパク質収縮が起きて“ぐにゃっとした食感”は減り歯切れが良くなるが、ジューシーさは失われるだろう。

そこで、設定温度によって鶏もも肉の状態がどのように変化するのか?目安となる加熱チャートがあれば、今後さまざまな料理に合わせて理想の状態に仕上げやすくなる。

鶏ももをBONIQにて
①60℃ 1時間25分
②63℃ 1時間
③65℃ 55分
④70℃ 55分
⑤75℃ 55分
⑥80℃ 55分
⑦85℃ 55分
⑧90℃ 55分

それぞれ低温調理を行った。

注1)この鶏ももは”ステーキ”を想定しており、”煮込み”ではない。(煮込みの場合、長時間調理するとコラーゲンが分解されて肉が柔らかくなるが、ここには当てはめない。)
したがって設定時間については、2cmの鶏肉を低温調理する上で、必要な加熱殺菌時間(芯温が設定温度に達するのにかかる時間+殺菌時間)に基づいている。
※参照:加熱時間基準表「低温調理 加熱時間基準表

ちなみに、以前「38℃〜 サーモンの火入れ温度比較実験」を行ったが、この時はそれぞれ温度別に一律30分とした。それは、生食用サーモンを使ってはいるが38℃~という低い温度帯で長時間調理すると、逆に食中毒菌を繁殖させてしまうおそれがあるため、芯温が設定温度に達したらすぐに引き上げる必要がある。生食用サーモンとは違い、今回の鶏もも肉に関しては殺菌時間が必要である。

注2)通常”鶏もものステーキ”を作る場合、低温調理前もしくは後に皮目をフライパンで焼く。しかし今回は厳密に設定温度別の鶏ももの身の火の入り具合を比較したいので、皮を焼くことによってやや肉内部まで加熱してしまう、という事態を避けるために皮目は焼かずにそのまま低温調理する。

注3)塩をするタイミングは「60℃ 鶏胸肉 低温調理 塩タイミング比較実験」や「57℃ ローストビーフ低温調理 塩投入比較」に従って、それぞれ低温調理後に塩を肉に含ませる方法を取る。(実験では初めから塩をして低温調理すると、上記方法の場合よりも肉が硬くなることを証明した。)

BONIQ設定

①60℃ 1:25(1時間25分)
②63℃ 1:00(1時間)
③65℃ 0:55(55分)
④70℃ 0:55(55分)
⑤75℃ 0:55(55分)
⑥80℃ 0:55(55分)
⑦85℃ 0:55(55分)
⑧90℃ 0:55(55分)

材料


・国産若どり 鶏もも肉(一番厚みのある箇所で2cm) 各1/2枚(約140g)
・塩  各1.2g(肉の重量の0.9%)

当レシピの栄養素

栄養素(1人分) 1日の推奨摂取量
低糖質レベル (一食:糖質5g以下)
カロリー 280 kcal -
糖質 0 g -
タンパク質 22.7 g 体重 x 1.2g ~ 1.5 g
脂質 19.6 g -
食物繊維 0 g 20 g 以上
カリウム 378 mg 3500 mg 以上
カルシウム 7 mg 650 mg 以上
マグネシウム 27 mg 350 mg 以上
鉄分 0.6 mg 7.5 mg 以上
亜鉛 2.2 mg 10 mg 以上

《手順》

比較実験

鶏もも肉の筋と余分な脂を切り落とし、1枚を半分にカットする。(火通りや肉質が不平等にならないよう、ももの上部と下部がどちらも入るよう縦にカットし、全て重さは同じものとする。)
フリーザーバッグに入れ、それぞれの設定温度・時間で低温調理をする。
BONIQ終了のタイマーが鳴ったらフリーザーバッグを引き上げ、バッグに塩を投入して肉に塩を含ませ、バッグごと氷水で冷却する。(肉に塩を含ませるためと、全ての温度帯の鶏ももが出揃うまで時間差が出来るため、冷却して待つ。)実食の際は全て60℃の湯せんに浸けて温め、同じ温度での肉の状態を見る。

フリーザーバッグの密封方法:https://youtu.be/N-t1ox7mox0

比較実験結果

結果は・・・

鶏もも温度時間比較5-2

まず、バッグに溜まったドリップの量を見てみると、

①60℃ 6g
②63℃ 10g
③65℃ 13g
④70℃ 16g
⑤75℃ 21g
⑥80℃ 26g
⑦85℃ 28g
⑧90℃ 35g

となり、温度が上がるに比例してドリップが多くなった。これは温度が高くなればなるほど肉のタンパク質の収縮が起こるからとみられる。また、ドリップの色は①②が赤っぽく、③→⑥ピンク、⑦⑧は黄色っぽくなり、温度が高いものほど透明度が高くなった。

次にもも肉の見た目であるが、
①②は断面がピンクがかっており、これをもし安全に調理された低温調理だと知らなければ「生なんじゃないか」とドキッとさせるような色である。(4分割画像ではカットしてすぐに撮影したが、次の画像は10分後のもの。どんどんピンク色に変色した。)③④は均一で美しい白に仕上がり、⑤~⑧は一部がグレーがかって身がやや縮んでいるのが見た目でもわかる。

そして実食すると、
①60℃と②63℃は差がとても少ない。どちらも柔らかくぐにゃっとした感じがあり、①の方がよりぐにゃっとしているが、どちらがどうかは同時比較しないとわからないレベルである。
③65℃は①②よりも身がやや引き締まっているが、歯切れが良く柔らかい。ジューシーさも失われていない。
④70℃は③よりもさらに身が引き締まり、歯切れが良くとても柔らかい。やや繊維質を感じ始める。ただ、ジューシーさは十分ある。
⑤75℃はややジューシーさが失われているが、パサつくほどではない。歯切れ良く、まだ十分に柔らかい。
⑥80℃→⑦85℃→⑧90℃と温度が高くなるにつれさらにジューシーさが失われていくが、パサつくほどではない。歯切れが良く、まだ十分柔らかい。

以上を総合して個人的な見解では、
「③65℃ 55分」に軍配!
“ぐにゃっと感”がないが最大限に柔らかく、ジューシーさを全く失わず、歯切れも良い。見た目にも均一の美しい白で、食べ手を不安にさせず、鶏もも肉の美味しさを存分に引き出していると言える。

やや火通りが浅く感じる①②では、やはり「60℃ 油淋鶏(ユウリンチー)鶏肉の甘酢がけ」のように、低温調理後にさらに揚げたりする料理(衣をカラっと短時間で揚げるが、若干中にも余熱で火が入る)に適しているのではないか。また、「鶏もも肉のステーキ」も低温調理“後”に皮目を焼く場合には若干内部に火が入るかもしれないので、その場合にはちょうど良いかもしれない。(皮目を低温調理「後」に焼くか「前」に焼くのが良いか、を検証した比較実験:「鶏ももステーキ 皮の焼き方比較実験」参照)

④~⑧はタンパク質の収縮がさらに起きる温度帯であるはずなので、もっとパサつきや身が縮みがあるかと想像していたが、実際は若干肉からジューシーさが失われているものの、充分柔らかく、歯切れよく、どれも間違いなく美味しいものであった。⑧90℃のものでさえ、食卓にこれが出てくるならば間違いなく美味しいと思う。ただ、ドリップが多く出てしまうので煮汁も生かす料理、例えば「95℃ 簡単なのに完璧!筑前煮」では出汁を使わず少量の調味料と野菜や鶏肉が持つ水分だけで調理しているが、このような煮物に適していると思う。

《作った感想》
今回の実験で、そのまま鶏もも肉をダイレクトに味わう“ステーキ”や“蒸し鶏”のような料理は、65℃が適しているのではないかと思いますが、90℃付近でも十分柔らかく美味しいのは驚きでした。
これでまた鶏ももを使った料理の可能性が広がったのではないかと思います。
仕上がりは個人の好みによるところも大きいと思いますので、実験結果を参考にぜひご自身の最適温度を見つけてみてください。

BONIQ管理栄養士による栄養アドバイス

比較実験結果のコメントにある
「①②は断面がピンクがかっており、これをもし安全に調理された低温調理だと知らなければ『生なんじゃないか』とドキッとさせるような色である。」
という現象については、科学的に証明できる変色反応です。

鶏肉だけにかかわらず、肉は酸素に反応して変色する食材です。
生肉を放置していると赤黒くなっていくこともそうですが、加熱した後の肉も変色します。
これは「ミオグロビン」という筋肉色素によるもので、ミオグロビンに含まれる鉄分が空気に触れると酸化する性質があることによります。
酸化すると「オキシミオグロビン」に変化して発色作用が起こり、明るい赤色になるのです。

良く焼いた肉にこの作用は働かないことから、低温調理特有の色の変化ともいえますね。どちらにせよ、安全な温度帯と時間で加熱していれば安心して召し上がれます。

<鶏もも肉の低温調理 比較実験シリーズ>
60℃~ 鶏もも肉の火入れ 温度時間比較実験
65℃ 鶏ももステーキ 皮の焼き方比較実験
62℃ 鶏もも カットタイミング比較実験(前塩)

<鶏もも肉の比較実験結果を元に、究極の鶏ももレシピ>
65℃ 鶏ももステーキ 和風ガーリックソース
65℃ 鶏ももときのこのコク旨煮
65℃ シンガポールチキンライス~海南鶏飯~
65℃ 改訂版 皮までごちそう!鶏の照り焼き
95℃ 鶏もものココナッツミルク煮

質問・疑問・要望・作った感想をコメントいただけたら嬉しいです^^

レシピ動画もご覧ください

【鶏もも火入れ 温度時間比較実験】レシピ動画

動画内の各設定時間、端数切り上げ前の「低温調理 加熱時間基準表」に基づいております。
安全上問題はございませんが、調理いただく際は「低温調理 加熱時間基準表(鶏肉)」に従ってBONIQ設定をご決定ください。

【リクエスト随時募集中!】「こんなレシピ欲しい!」リクエスト投稿








【注意】
低温調理では高温による殺菌ができないため、食の安全に留意する必要があります。
レシピ記載の温度・時間設定をご参考いただき、例として大きく温度設定を変更するなどはされないようご注意ください。
なお、レシピ記載の設定をお守りいただいた上であっても、食材や調理環境などによっても安全面のリスクが異なるため、最終的には自己責任となりますことご了承ください。
取扱説明書や低温調理ガイドブック、各種の低温調理における情報などをご覧いただいた上で、安全に配慮した調理をお願いいたします。詳細はこちらの【低温調理のルール 〜6つのポイント〜】を参照くださいませ。


また食中毒に関して、下記のサイトもご一読ください。
特にお年寄りやお子様、免疫力の弱っている方は当サイト推奨温度設定に従わずに、下記厚生労働省サイトの指示に従い全てのお肉で【中心温度75℃ 1分以上】の加熱をしてください。
→ 食肉に関する注意点:厚生労働省 食中毒予防

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小野寺 桂子
大学卒業後にフレンチを学びにル・コルドン・ブルー・ロンドンへ留学。 その後、La Maison Courtineパリにて料理人をした後、フレンチの鉄人坂井氏がプロデュースの大阪の名門フレンチ ラ・ロシェルにて従事。食育インストラクター・アスリートフードマイスター3級・日本ソムリエ協会公認ソムリエ。お酒にマッチするBONIQレシピを提案させていただきます。
小野寺 桂子

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BONIQ設定

  • ①60℃ 1:25(1時間25分)
  • ②63℃ 1:00(1時間)
  • ③65℃ 0:55(55分)
  • ④70℃ 0:55(55分)
  • ⑤75℃ 0:55(55分)
  • ⑥80℃ 0:55(55分)
  • ⑦85℃ 0:55(55分)
  • ⑧90℃ 0:55(55分)

材料一覧

  • ・国産若どり 鶏もも肉(一番厚みのある箇所で2cm) 各1/2枚(約140g)
  • ・塩  各1.2g(肉の重量の0.9%)

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