魚の低温調理は安全?生食用と加熱用の分け方、アニサキス対策と厚み別の加熱時間

サーモンは40℃で温める。たらは60℃で1時間45分かける。同じ魚なのに、どうしてこんなに違うのでしょうか。

答えは、この2つがそもそも別の操作だからです。40℃は食感を変えるための加温で、60℃は中心まで火を通すための加熱です。魚の低温調理で起きやすい誤りは、この2つを混ぜてしまうことです。生食用の魚を50℃台で長時間置いてしまったり、逆に加熱用の切り身を40℃で温めてしまったりします。どちらも「低温調理」という同じ言葉の中に入ってしまうので、区別が要ります。

本記事では、BONIQの加熱時間基準表(ttguide)の魚の表と、厚生労働省が示すアニサキス対策の条件を突き合わせて、この境目を整理します。低温調理全体の安全性の考え方は「低温調理は危ない」は本当かに、食材別の設計は鶏むね肉牛肉豚肉とジビエにまとめています。

この記事が扱うのは、小売で流通している海産魚の切り身です。淡水魚(別の寄生虫が関わります)、内臓、丸ごと食べる小型魚、釣った魚を内臓つきで扱う場合、フグなどの有毒魚は対象に含みません。これらは温度の話ではなく、下処理や種類の判別の話になります。

編集・安全基準照合:BONIQ(2026年9月4日)

この記事の要点(先に結論)

  • 魚の低温調理には二軸あります。生食用の魚を40℃前後で温めるのは食感のための加温で、殺菌でも寄生虫対策でもありません。加熱用の魚を魚の加熱時間基準表で中心まで加熱するのが、殺菌のための加熱です。
  • 生食用として売られている魚は、40℃前後で温めていただけます。刺身として生で食べる前提の魚なので、そこは変わりません。狙いは魚のコラーゲン(結合組織)が変性する温度帯を通すことで、見た目は生のまま、身だけがほろほろにほどける食感になります。
  • ただし時間の上限があります。40〜43℃で最大30分までにしてください。これは公的な安全基準ではなく、BONIQ独自の運用上限です。この温度帯は細菌が増えやすい帯の中にあり、凍結していない生食用の魚が本来置かれるべき保存温度(10℃以下)から外れる操作だからです。冷蔵庫から出してすぐ湯せんに入れ、時間を延ばさないでください。
  • ただし殺菌ではありません。温め終わったら袋ごと氷水で急冷し、刺身と同じように冷えた状態で、そのまますぐに食べてください。冷蔵庫に入れて明日まで持ち越す使い方はできません。
  • 加熱用の魚は、ttguide P.4の魚の表(55〜70℃)に従い、いちばん厚い部分を測って、その交点にある合計時間を守ります。温度だけを抜き出しても時間は決まりません。
  • 表の55〜59℃の行は、アニサキス対策が済んでいる魚のための行です。厚生労働省がアニサキスに有効とする加熱は「70℃以上、または60℃なら1分」なので、59℃以下はここに届きません。この行を使うのは、マイナス20℃で24時間以上の冷凍が済んでいる魚に限ってください。
  • アニサキス対策がされているか分からない魚は、魚の加熱時間基準表の60℃以上の行で加熱してください。60℃の行なら、厚さ2cmで1時間20分です。このうち芯温保持は30分で、厚生労働省やCodexが示す「中心60℃で1分」を大きく上回ります。湯せんの温度は中心温度が近づいていく上限なので、中心の数字を狙うのではなく、表の合計時間を守るのが正しい使い方です。
  • 「生食用」という表示は、生で食べる前提で売られているという意味です。アニサキスの冷凍処理が済んでいることの証明ではありません。日本では生食用の魚に冷凍が義務づけられていないためです。
  • 魚種によって上書きされる条件があります。ヒラメはクドアのため魚表の対象外、ホタルイカやスケトウダラは旋尾線虫のため冷凍ならマイナス30℃で4日間以上、サケ・マス類は日本海裂頭条虫のため56℃以上の加熱が必要です。
  • 牡蠣などの二枚貝は魚の表の対象外です。ノロウイルスの公的条件は中心85〜90℃で90秒以上で、生食用の牡蠣であっても40℃で温める対象にはなりません。
  • ヒスタミンは加熱では消えません。赤身魚を常温に置かない、解凍は冷蔵庫で行う、という扱い方の問題として管理します。
  • 魚で特に注意したい食中毒菌の一つが腸炎ビブリオで、その第一の対策は加熱ではありません。この菌は真水に弱いので、魚介類は新鮮なものでも調理直前に真水でよく洗い、買ったら短時間でも冷蔵庫に入れて増殖を抑えます。
  • 加熱前後の食品を10〜54℃に長く置かないこと、加熱後は袋ごと氷水で急冷することは、魚でも変わりません。時間や温度の履歴が分からない魚は、再加熱で救済せず廃棄してください。

魚の低温調理は、二軸で考える

肉の低温調理には、この分岐がありません。牛でも豚でも鶏でも、やることは「中心まで、決められた温度と時間で加熱する」の一本道です。魚だけが二軸になります。生で食べられる魚が存在するからです。

まず、この2つを並べます。

項目 生食用の魚を40℃前後で温める 加熱用の魚を基準表で加熱する
目的 食感を変える 中心まで火を通す
殺菌 していません 表の条件で行います
温度 40℃前後(魚の加熱時間基準表の対象外) 55〜70℃(魚の加熱時間基準表)
時間の決め方 40〜43℃で最大30分(BONIQのレシピはいずれも30分) 最大厚みと温度の交点にある合計時間
使える魚 生食用・刺身用として売られている魚 加熱用、表示のない切り身、生食用も可
寄生虫 死んでいません 条件によって対応が変わります
加熱後 氷水で急冷し、冷えた状態ですぐに食べます。保存はできません 袋ごと氷水で急冷し、その日に食べるか冷凍へ回します

BONIQのレシピでは、この区別を注記の形で明示しています。40℃前後のサーモンのレシピには「本レシピは『生食』となりますので、保存ができません」と書かれていて、そのすぐ後に「生食=『低温調理 加熱時間基準表(魚)』を満たしていない、低温で加熱調理したもの」と定義が添えられています。基準表を満たしていないものは、加熱済みの料理ではなく刺身の一種として扱う、という立て付けです。

つまり、40℃のサーモンは「低温で調理した魚」ではありません。「刺身の食感を変えたもの」です。ここが出発点になります。

生食用の魚を40℃前後で温める場合と、加熱用の魚を基準表で加熱する場合の違い
図1:魚の低温調理には「食感のための加温」と「中心まで火を通す加熱」の二軸があります。入口と出口を混ぜないことが出発点です。

では、なぜ生の魚をわざわざ温めるのか

殺菌でもなく、火を通すためでもないなら、何のために温めるのか。ここを先に書いておきます。食感です。

魚には海洋性コラーゲンが多く含まれていて、これが変性する温度帯が、牛や豚のコラーゲンよりずっと低いところにあります。40℃前後というのは、その入口を通す温度です。通ると何が起きるか。見た目は生の魚のままなのに、身だけがほどけて、お箸で持ち上げられないくらいほろほろになります。生の刺身とも、火を通した魚とも違う、その中間にしかない食感です。

これまで、この食感に出会える場所は限られていました。温度を1℃単位で管理できる専門店の厨房です。家庭のフライパンや鍋で40℃を30分保つのは、現実的ではありませんでした。BONIQなら、温度と時間を設定して、同じ状態を自宅で再現できます。

BONIQでは、この仕上がりを「飲めるサーモン®」と呼んでいます。食べたことのない方にとっては、魚の食感の常識が一度崩れる体験になります。低温調理を始めたら一度は通ってほしい一皿です。

そのうえで、条件が付きます。この40℃は、食感のためだけに選んだ温度です。安全のために必要な工程を通っているわけではありません。だから次の章の話になります。

生で食べていいなら、温めてもいいのでは

いちばん自然な疑問だと思います。生で食べられる魚なのに、なぜ「急冷してすぐに食べる」という条件が付くのでしょうか。

理由は、寄生虫と細菌で振る舞いが違うからです。

寄生虫は、食品の中で数を増やしません。刺身を10分後に食べても30分後に食べても、アニサキスの数は変わりません。だから「生で食べられる魚を40℃で温める」ことは、寄生虫の観点では刺身を食べるのと同じです。ここは変わりません。

細菌は増えます。そして40℃前後は、BONIQが「長く置かないでください」と案内している10〜54℃の帯のちょうど中にあります。冷たいままの刺身をすぐ口に入れるのと、40℃の袋の中に30分置くのは、細菌の観点では別のことをしています。

魚で押さえておきたいのは腸炎ビブリオです。食品安全委員会は、この菌は真水や酸に弱い一方で、3%前後の食塩を含む食品中でよく増殖し、室温でも速やかに増殖すると説明しています。魚は海水由来の塩分を持っているので、条件がそろいやすい相手です。だから魚介類は新鮮なものでも真水でよく洗い、短時間でも冷蔵庫に入れて増殖を抑えることが予防策として挙げられています。

だから条件はこうなります。生食用の魚は40℃前後で温めていただけます。ただし、それは加熱ではありません。温め終わったら袋ごと氷水に浸けて急冷し、刺身と同じように冷えた状態で食べてください。BONIQの40℃前後のレシピも、この手順です。43℃のサーモンのレシピは、急冷したらそのまま盛り付けて仕上げる流れになっていて、ページには「本レシピは『生食』となりますので、保存ができません」「すぐにお召し上がりください」と明記されています。40℃という温度帯に置いたままにしないこと、冷やしたあとも時間を置かずに食べることが条件です。冷蔵庫に入れて明日食べる、という使い方はできません。日を置いて食べたいなら、40℃ではなく加熱用として基準表の条件で火を通し、急冷して冷凍します。

なお、牡蠣などの二枚貝は、この「生食用なら温めてよい」の対象から外れます。理由は後半で説明します。

加熱用の魚:基準表の読み方

ここからが「殺菌のための加熱」の話です。

BONIQの加熱時間基準表 P.4には「魚の加熱時間基準表(※生食用でない場合)」が載っています。55℃から70℃まで1℃刻み、厚みは0.5cmから5.5cmまで0.5cm刻みです。

表に書かれている時間の意味を、先に押さえてください。表の見出しにあるとおり、これは「食材の中心部が設定温度に達する時間」と「加熱殺菌に必要な時間」の合計です。設定温度に達してから何分、という数字ではありません。投入してから取り出すまでの合計時間です。

だから「60℃で10分」のような公的な条件をそのまま設定に使うことはできません。10分というのは中心温度で保つ時間なので、厚さ2cmの切り身なら、中心が60℃に届くまでの時間を足す必要があります。この足し算を済ませてあるのが基準表です。詳しい算出方法はBONIQの加熱時間基準表の算出方法と根拠で公開しています。

魚の加熱時間基準表(生食用でない場合)

単位は「時間:分」です。初期温度は冷蔵庫から出したての状態を前提にしています。

※表は横にスクロールしてご覧いただけます。

設定温度 0.5cm 1cm 1.5cm 2cm 2.5cm 3cm 3.5cm 4cm 4.5cm 5cm 5.5cm 芯温保持
55℃ 3:35 3:50 4:05 4:20 4:45 5:00 5:30 6:00 6:30 7:00 7:30 3:30
56℃ 2:25 2:40 2:55 3:10 3:35 3:50 4:20 4:50 5:20 5:50 6:20 2:20
57℃ 1:40 1:55 2:10 2:25 2:50 3:05 3:35 4:05 4:35 5:05 5:35 1:35
58℃ 1:10 1:20 1:40 1:55 2:20 2:35 3:05 3:35 4:05 4:35 5:05 1:05
59℃ 0:50 1:00 1:20 1:35 2:00 2:15 2:45 3:15 3:45 4:15 4:45 0:45
60℃ 0:35 0:50 1:05 1:20 1:45 2:00 2:30 3:00 3:30 4:00 4:30 0:30
61℃ 0:25 0:40 0:55 1:10 1:35 1:50 2:20 2:50 3:20 3:50 4:20 0:20
62℃ 0:20 0:35 0:50 1:05 1:30 1:45 2:15 2:45 3:15 3:45 4:15 0:15
63℃ 0:15 0:30 0:45 1:00 1:25 1:40 2:10 2:40 3:10 3:40 4:10 0:10
64℃ 0:15 0:30 0:45 1:00 1:25 1:40 2:10 2:40 3:10 3:40 4:10 0:10
65℃ 0:10 0:25 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05
66℃ 0:10 0:25 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05
67℃ 0:10 0:25 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05
68℃ 0:10 0:25 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05
69℃ 0:10 0:25 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05
70℃ 0:10 0:20 0:40 0:55 1:20 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 0:05

(出典:BONIQ 加熱時間基準表 P.4。右端の「芯温保持」は、厚みが5.5cmを超えて芯温計を使う場合の保持時間の基準です)

表から読み取れること

厚さ2cmの列を縦に見ると、55℃で4時間20分、60℃で1時間20分、63℃で1時間00分、65℃で55分。温度を上げると時間が急に短くなります。

なぜそうなるのかは、右端の芯温保持の列と見比べると分かります。55℃の芯温保持は3時間30分。合計4時間20分から引くと、残りは約50分です。これが厚さ2cmの中心に熱が届くまでの時間にあたります。同じ計算を63℃の行でやると、合計1時間00分から芯温保持10分を引いて約50分。同じ値になります。厚みが同じなら中心到達時間はほぼ同じで、変わっているのは殺菌に必要な保持時間のほうだ、ということです。

つまり55℃の4時間20分は「4時間以上も生ぬるい湯に置く」という意味ではありません。3時間30分は、表が殺菌のために確保している時間です。短くできないから短くしていない、それだけのことです。

65℃から69℃までの行を見ると、どの厚みでも同じ値が並び、芯温保持は表の最小単位である5分になっています。この帯では、合計時間を決めているのは殺菌時間ではなく厚みです。

厚さ2cmの魚を55℃、60℃、63℃で加熱した場合の中心到達時間と芯温保持時間の内訳
図2:厚さ2cmでは、表の合計時間を「中心が温度に近づくまで」と「芯温保持」に分けて読みます。中心到達時間は、丸められた表の合計値から芯温保持を引いた概算です。

そして、いちばん大事なことを繰り返します。時間は重さではなく厚みで決まります。同じ100gの切り身でも、厚く切るか薄く開くかで中心に熱が届く時間はまるで違います。調理前に、いちばん厚い部分を測ってください。

アニサキス:温度だけでは決まらない、もうひとつの軸

魚の低温調理で必ず押さえておきたいのが、アニサキスです。ここが肉と決定的に違う部分になります。

アニサキスは寄生虫(線虫)の一種で、厚生労働省の説明では幼虫の長さは2〜3cm、幅は0.5〜1mmほど、白い少し太い糸のように見えます。サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、ヒラメ、マグロ、イカなどに寄生し、寄生していた魚が死んで時間が経つと、内臓から筋肉へ移動することが知られています。厚生労働省の説明では、生の魚介類を食べたあと1時間から数日で症状が出ます。激しいみぞおちの痛みが出る急性胃アニサキス症は12時間以内、下腹部痛が出る急性腸アニサキス症は十数時間以降とされています。翌日以降に痛みが出ることもあるので、食べた直後でなくても原因として疑ってください。

厚生労働省がアニサキス対策として示している条件は、加熱と冷凍の2つです。

手段 厚生労働省が示す条件
加熱 70℃以上、または60℃なら1分
冷凍 マイナス20℃で24時間以上

(出典:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」の、事業者向けの予防方法)

同じページには、消費者向けの案内として、より新鮮な魚を選ぶこと、丸ごと1匹で買ったら速やかに内臓を取り除くこと、内臓を生で食べないこと、目視で確認して幼虫を除去することが挙げられています。そして、ここが大事なのですが、次の一文も添えられています。一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません。

しめ鯖にすれば大丈夫、わさび醤油なら平気、という理解は成り立たないということです。有効なのは、加熱か冷凍かの2つだけです。

「生食用」という表示は、何を保証しているのか

ここが本記事でいちばん誤解の多いところです。

日本の制度で「生食用」の表示が求められているのは、腸炎ビブリオ対策としての枠組みです。厚生労働省は2001年(平成13年)、腸炎ビブリオによる食中毒が生食用魚介類加工品を原因として夏に集中していたことを受けて、生食用鮮魚介類について成分規格・加工基準・保存基準・表示基準を新たに設けました。成分規格は腸炎ビブリオ最確数が1gあたり100以下、表示基準は「生食用である旨」と「保存の方法」、保存基準は清潔で衛生的な容器に入れて10℃以下、というものです。

つまり「生食用」は、生で食べる前提の衛生条件を満たして売られている、という表示です。アニサキスの冷凍処理が済んでいることを示す表示ではありません。厚生労働省のアニサキスのページでも、冷凍は事業者への予防方法として案内されており、EUが生食用の魚介類に冷凍を義務づけていること、米国が生食用の魚に冷凍を求めていることは「海外のアニサキス食中毒等の予防対策」として別枠で紹介されています。

だから、生食用として売られている魚を刺身で食べることと、その魚のアニサキス処理が済んでいることは、別の話になります。

「生」と「生食用」は、違います

実際に起きた事例があります。

船橋市は2020年10月、市内で初めてのケースとして、食品表示の誤認によるアニサキス食中毒を公表しました。スーパーで購入した鮭を自宅で生のまま調味して食べた方が、アニサキス食中毒になりました。保健所の調査では、販売店は「秋鮭(生)」の「(生)」を「冷凍ものではない」という趣旨で表示していたのに対し、購入した方はこれを生食用と認識して加熱しない調理をした、と断定されています。

同市は、容器包装された魚で生のまま食べられるものには、食品表示法に基づき「生食用」「刺身用」「そのままお召し上がりになれます」等と表示する義務があり、表示のない魚は加熱が必要になると案内しています。

低温調理でこれが関わってくるのは、40℃前後の加温をするときです。「生」と書かれた鮮魚の切り身は、生で食べる前提の魚ではありません。40℃で温める対象にもなりません。表示を見て、「生食用」「刺身用」と書かれているものを選んでください。

表の55〜59℃は、どういうときに使えるのか

ここで基準表に戻ります。魚の表は55℃から始まっています。この低いほうの行は、表の正規の加熱条件でありながら、アニサキス対策としては数えられません。厚生労働省がアニサキスに有効とする加熱は「70℃以上、または60℃なら1分」で、59℃以下はその線に届かないからです。表の低い行は、寄生虫ではなく細菌を想定した加熱条件として置かれています。

「表に載っている温度と時間を守ったのだから安全」という読み方は、ここで成立しません。表を守ることと、アニサキス対策が済んでいることは、別の条件です。

この行が使えるのは、先に冷凍でアニサキス対策が済んでいる魚です。ttguide P.4も表のすぐ下で、アニサキスには「マイナス20℃で24時間以上冷凍」が必要であること、家庭用冷凍庫は約マイナス18℃のため48時間以上を推奨することを注記しています。

買った魚の状態 40℃前後の加温 魚表の55〜59℃ 魚表の60℃以上
「生食用」「刺身用」と表示されている(冷凍の有無は問いません) できます。急冷してすぐ食べます 使いません できます
表示は「生」「加熱用」または無いが、アニサキス対策の冷凍(マイナス20℃で24時間以上)が確認できる 使いません 使えます(※) できます
「生」「加熱用」、または表示がなく、冷凍も確認できない 使いません 使いません ここを使います

生食用の魚で55〜59℃を使わないのは、冷凍が確認できている場合も変わりません。理由は二つあります。ひとつは、生食用の表示が冷凍済みを意味しないため、アニサキスが残っている可能性があることです。もうひとつは、冷凍が確認できていたとしても、生で食べる前提の魚を細菌が増えやすい帯のすぐ近くに何時間も置く操作になることです。55℃の行は厚さ2cmで4時間20分かかります。生食用の魚は40℃前後で温めて急冷しすぐに食べるか、60℃以上で火を通すか、どちらかを選んでください。

※ この「使えます」から外れる魚があります。ホタルイカ、スケトウダラ、ハタハタ、スルメイカは旋尾線虫のため、マイナス20℃で24時間の冷凍では対策になりません。ヒラメと二枚貝は、そもそも魚表の対象外です。いずれも後半で個別に書いています。

なお、「冷凍」や「解凍」の表示があっても、それだけでマイナス20℃で24時間以上という条件を満たしたとは分かりません。判断がつかないときは、迷わず60℃以上を選んでください。

60℃の行は、公的な条件をどれだけ満たすのか

低温調理の時間の読み方に関わる話なので、少し丁寧に書きます。

BONIQの基準表の時間は、湯に入れてから引き上げるまでの合計です。中身は「中心が設定温度に達するまでの時間」と「その温度で保つ時間(芯温保持)」の足し算になっています。だから設定温度と行の温度をそろえて合計時間を守れば、中心が設定温度の近くまで上がり、そこから芯温保持の時間だけ保たれます。

ここは正確に書いておきます。湯せんの温度は、食材の中心温度が近づいていく上限にあたります。60℃の湯に入れた魚の中心は60℃へ近づいていきますが、きっちり60.0℃を超えることはありません。ですから「60℃の設定で中心が60℃を1分超えた」と言い切れるわけではありません。

そのうえで60℃の行を見てみます。厚さ2cmなら合計1時間20分で、そのうち芯温保持は30分です。ここで効いてくるのは、温度そのものではなく時間の幅です。

食品安全委員会のアニサキスに関するリスクプロファイルには、実験で確かめられた数字が載っています。アニサキスは60℃では数秒で、70℃以上では瞬時に死滅するとされています。加熱に対する最大生存時間としては、アニサキス属が60℃で1秒、シュードテラノーバ属が60℃で1分、50℃でも10分という報告が引用されています。厚生労働省やCodexが示す「中心60℃で1分」は、この実測値に余裕を持たせた条件です。

厳しい側の見方を取っても、30分は足りています。FAOはアニサキスの幼虫を死滅させる条件として60℃以上で少なくとも10分間を挙げており、EFSAは厚さ3cmの切り身では10分間の加熱が必要だと言及しています。この10分に対しても、芯温保持の30分は上回ります。この行を勧めているのは、温度がぴったり届くからではなく、時間の側にこれだけの幅があるからです。

温度そのものを確実に超えたい場合は、設定を61℃以上にしてください。中心が60℃を確実に上回ります(61℃・厚さ2cmで1時間10分)。

ほかの寄生虫も、この行でおおむね収まります。シュードテラノーバはアニサキスと同じ条件、日本海裂頭条虫は56℃以上の加熱です。旋尾線虫は60℃以上の加熱とされていますが、これが問題になるホタルイカ、スケトウダラ、ハタハタ、スルメイカは、そもそも魚の加熱時間基準表で扱う切り身ではありません。

腸炎ビブリオは、温度が上がれば死滅に必要な時間が短くなります。食品安全委員会のハザード情報は、保守的な推奨として「食品の中心温度が61℃、10分以上」を示しています。一方、同じ資料の殺菌条件には、白身魚すり身では65℃20秒で陰性、マグロすり身では65℃15秒で死滅、エビすり身では65℃15秒という実験結果も引用されています。同委員会の啓発資料も「60℃で10分間、または65℃で1分以上」と説明しています。したがって「61℃10分」を高い温度にも固定して、65℃以上の行を保持5分だから不足とする読み方はできません。ただし、すり身の実験結果だけで魚表全体を検証できるわけでもありません。温度だけ、保持時間だけを切り出さず、設定温度と最大厚みに対応する魚表の合計時間を守ってください。腸炎ビブリオの第一の対策は、魚介類を新鮮なものでも真水でよく洗い、短時間でも冷蔵庫に入れて増殖を抑えることです。

ですから、本記事の結論はこの2行に集約されます。

  • アニサキス対策(マイナス20℃で24時間以上の冷凍など)がされているかを確認してください
  • 分からない場合は、魚表の60℃以上の行で加熱してください。設定と行の温度をそろえ、いちばん厚い部分と交わる合計時間を守ります

厚さ2cmの切り身なら、60℃で1時間20分。63℃なら1時間00分、65℃なら55分です。温度を上げるほど短くなるので、時間を取りたくない日は温度の高い行を選んでください。

家庭用冷凍庫で対策できるのか

できる場合もありますが、確認が要ります。

公的な条件はマイナス20℃で24時間以上です。家庭用冷凍庫の庫内はおおむねマイナス18℃前後なので、この条件をそのまま満たしません。ttguide P.4は、家庭用冷凍庫(約マイナス18℃)なら48時間以上を推奨としています。

ただし、家庭の冷凍庫は開け閉めのたびに庫内温度が上がり、食材の厚みによって芯まで凍るまでの時間も変わります。庫内温度や凍結状態を確認できないなら、冷凍で対策したことにせず、加熱を選んでください。これがいちばん確実です。

アニサキス以外に、条件が変わる相手

魚はアニサキスだけではありません。ttguide P.4には、魚の表の下に、対象ごとの条件がまとめて注記されています。ここを飛ばすと「表どおりにやったのに」という事故が起きるので、一覧にします。

読み方のこつは、条件が上書きされる相手だけを覚えることです。ほとんどの魚は、前の章の2行(生食用は40℃・分からなければ60℃以上)で足ります。

対象 主な魚 死滅・予防の条件 魚表の55〜59℃ どうするか
アニサキス サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、ヒラメ、マグロ、イカなど 70℃以上、または60℃なら1分/マイナス20℃で24時間以上の冷凍 届きません 60℃以上の行、または冷凍を確認
シュードテラノーバ アンコウ、タラ、オヒョウ、イカ、メヌケ、ホッケ、マンボウ アニサキスと同様の処理で死滅 同じく届きません アニサキスと同じ扱い
旋尾線虫 ホタルイカ、スケトウダラ、ハタハタ、スルメイカ 60℃以上で加熱/マイナス30℃で4日間以上の冷凍 届きません 60℃以上の行。冷凍の条件はアニサキスと別
日本海裂頭条虫 サケ、マス類 56℃以上の加熱/マイナス20℃以下で24時間以上の冷凍 56℃以上の行なら満たします 冷凍でも対応可。ただしアニサキスは別途
クドア・セプテンプンクタータ ヒラメ 75℃で5分以上の加熱/マイナス20℃で4時間以上の冷凍 足りません 魚表の対象外
ノロウイルス 牡蠣などの二枚貝 中心部が85〜90℃で90秒以上 魚表の対象外です 二枚貝は魚表を使いません
腸炎ビブリオ 魚介類全般 中心61℃で10分以上を推奨。別資料では60℃10分または65℃1分以上 温度ごとに必要時間が変わります 真水でよく洗い、冷蔵で保管。加熱は魚表の合計時間を守る
ヒスタミン 赤身魚(加工品も含む) 加熱では分解されません 温度では解決しません 常温に置かず、解凍は冷蔵庫で行います

(出典:ttguide P.4の注記。アニサキスの条件は厚生労働省、クドアは厚生労働省「クドアによる食中毒について」、ノロウイルスは厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」、腸炎ビブリオは食品安全委員会の案内と照合しています)

この表を見ると、寄生虫対策では60℃以上の行がひとつの合流点になっていることが分かります。アニサキス、シュードテラノーバ、旋尾線虫、日本海裂頭条虫の加熱条件は、いずれも60℃の行の芯温保持時間で満たされます。「迷ったら60℃以上」とするのは、そういう理由です。腸炎ビブリオは温度が上がるほど必要時間が短くなるため、61℃10分をすべての高温側へ固定して読み替えません。まず真水で洗って冷蔵し、加熱するときは魚表の合計時間を守ります。

魚介類で問題になる寄生虫と、加熱・冷凍条件、魚表の対象外となる例外
図3:60℃以上の行は一般的な海産魚の切り身に関わる寄生虫対策の合流点です。ただし、ヒラメ、二枚貝、ヒスタミンは別条件になります。

この表の外に出るのは、ヒラメと二枚貝、そしてヒスタミンです。順に見ていきます。

冷凍でまとめて解決できない相手:ホタルイカとスケトウダラ

いちばん見落としやすいのがここです。

アニサキスの冷凍条件はマイナス20℃で24時間以上ですが、旋尾線虫はマイナス30℃で4日間以上です。桁が違います。つまり、アニサキス対策として冷凍した魚でも、旋尾線虫については対応できていないことになります。

対象はホタルイカ、スケトウダラ、ハタハタ、スルメイカです。これらを低温調理するなら、冷凍したかどうかにかかわらず、60℃以上で加熱する条件を選んでください。前の章の「60℃以上の行」を使えば、そのまま満たせます。

ホタルイカについては、生食や内臓を含む食べ方そのものが本記事の範囲を外れます。踊り食いや内臓つきの生食は、低温調理で扱う対象ではありません。

サケ・マスを55℃台で使うとき

日本海裂頭条虫はサケやマス類に関わる寄生虫で、条件は56℃以上の加熱、またはマイナス20℃以下で24時間以上の冷凍です。

ここで表の刻みが関わってきます。魚表の55℃の行だけは、この56℃という線を下回ります。冷凍でアニサキス対策をしたサケを55℃で仕上げる、という組み合わせを選ぶ場合は、同じ冷凍(マイナス20℃で24時間以上)が裂頭条虫の条件も満たしていることを確認してください。冷凍が不確かなら、55℃ではなく60℃以上を使います。

ヒラメは、魚の加熱時間基準表の外にあります

ヒラメにはクドア・セプテンプンクタータという寄生虫が関わります。厚生労働省は、クドアはマイナス20℃で4時間以上の冷凍、または中心温度75℃で5分以上の加熱によって病原性が失われることが確認されている、と説明しています。

この条件は、魚の加熱時間基準表の範囲(55〜70℃)に収まりません。だからヒラメは、この記事で扱ってきた表の対象外です。魚表の63℃や65℃では、クドアの条件を満たしません。

そのうえで、この記事ではヒラメの低温調理の設定温度を案内しません。理由は温度の余裕がないことです。湯せんの温度は、食材の中心温度が近づいていく上限にあたります。中心が湯温をわずかに下回った状態で止まると、クドアの条件である「中心75℃で5分以上」に対して余裕がほとんど残りません。ここは、設定温度を決めて紹介するより、条件そのものをお伝えするほうが誠実だと考えました。

ヒラメを低温調理で扱いたい場合は、上の公的条件(マイナス20℃で4時間以上の冷凍、または中心温度75℃で5分以上)を満たしているかを、中心温度計で実測して判断してください。刺身で食べる場合は、生食用として売られているヒラメを選ぶことになります。

牡蠣などの二枚貝は、魚表の外にあります

ここが「生食用なら温めてよい」が通用しない場所です。

牡蠣などの二枚貝で問題になるのはノロウイルスで、厚生労働省は、汚染のおそれのある二枚貝などの食品の場合は中心部が85〜90℃で90秒以上の加熱が望まれる、としています。国際的にも、コーデックス委員会のガイドライン(CXG79-2012)が同じ85〜90℃で少なくとも90秒間を示しています。

85℃という数字は、魚表の上限70℃をはるかに超えています。二枚貝は魚の加熱時間基準表の対象ではありません。40℃で温める対象にもなりません。40℃ではノロウイルスは失活せず、そのうえ細菌が増えやすい帯に長く置くことになります。

もうひとつ、牡蠣の「生食用」は魚の「生食用」と意味が違います。牡蠣の表示基準では、生食用であるかないかの別に加えて、採取された海域等を表示することが求められています。生食用の牡蠣は、海水100mlあたりの大腸菌群最確数が70以下の海域で採取されたもの、またはそれ以外の海域で採取して同じ水質の海水や人工塩水で浄化したもの、という区分です。指定海域という制度ではなく、水質と浄化の条件です。いずれにしても、鮮度が良いから生食用というわけではありません。この海域の話は牡蠣に固有のもので、魚一般の「生食用」に当てはめることはできません。

この記事では、生食用の牡蠣であっても低温での加温を案内しません。40℃前後で温める調理法自体は存在しますが、二枚貝は海水中の有機物を濾して食べるため、ノロウイルスも腸炎ビブリオも消化管内に蓄積することが知られています。魚の切り身とは前提が違います。牡蠣を加熱するなら、中心85〜90℃で90秒以上まで上げてください。厚生労働省は、食品中に存在するウイルスはタンパク質で保護されているため、失活を確実にするにはより厳しい加熱条件が必要になる、とも説明しています。

ヒスタミンは、温度では解決できません

最後に、加熱でも冷凍でも解決しない相手を挙げておきます。

ヒスタミンは、赤身魚が常温に置かれる間に生成される物質で、いったんできてしまうと加熱では分解されません。ttguide P.4は、予防として4つを挙げています。赤身魚(加工品も含む)は常温で放置しない、冷蔵でも長期間の保管は避ける、冷凍した赤身魚を解凍するときは冷蔵庫で解凍する、冷凍と解凍の繰り返しは避ける。

低温調理の設定をどう選んでも、買い物から調理までの扱い方が悪ければ防げません。マグロやカツオを扱う日は、買ったらすぐ冷蔵庫へ、解凍は冷蔵庫で、を守ってください。

あわせて、腸炎ビブリオについてもうひとつ。これは公的な条件ではなくBONIQ独自の扱いですが、シイラやカツオのように沿岸の高い水温帯にいる魚は、皮付きのまま低温調理することを避けています。皮の表面は洗いにくく、身の中心の条件を満たしても表面側の管理が甘くなるためです。皮を引くか、皮側をしっかり焼いてから使ってください。

そもそも、なぜ40℃と55℃以上に分かれるのか

ここまで安全の話を続けてきたので、食感の側も一段落だけ書いておきます。分岐の理由が分かると、温度を選ぶときに迷いが減ります。

魚のタンパク質は、おおよそ20℃あたりから変性が始まり、35〜45℃で凝固し、45℃を超えると締まって硬くなっていくとされています(BONIQが社内で整理している目安で、魚種によって差があります)。前半で触れたコラーゲンがほどけるのも、この低いほうの温度帯です。つまり40℃前後というのは、筋繊維を強く締めないまま筋膜だけをやわらげられる、かなり狭い窓にあたります。温度帯ごとの仕上がりは低温調理の黄金温度7つにまとめています。

一方、殺菌を目的にすると55℃以上が必要になります。この温度帯では魚の身は締まります。ふっくら仕上げる工夫はできますが、40℃の食感を再現することはできません。だから二軸になるわけです。安全と食感のどちらかを選ぶのではなく、どちらの目的で調理するのかを先に決める、という順番になります。

加熱の前後で、決めておくこと

温度と時間を守っても、その前後で崩れることがあります。魚は特に、買ってから調理までの扱いが結果を左右します。

放置を避ける温度帯は10〜54℃です。BONIQは、加熱前後の食品をこの帯に長く置かないよう案内しています。これはBONIQが社内で整理している目安で、公的に定められた数字ではありません。これは加熱の設定温度を禁止する帯ではありません。魚表の55℃は管理された加熱条件で、放置の話とは別のものです。この区別は「低温調理は危ない」は本当かで詳しく説明しています。

加熱後の冷却は、30分以内に中心20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げます。この数値はBONIQ独自の目安で、公的な基準として示されているものではありません(一般的な冷却基準より厳しい側に置いています)。家庭では、袋のまま氷水に沈めて芯まで冷やし、そのあと5℃以下の冷蔵庫へ移すのが現実的です。

冷蔵での作り置きの日数は、この記事では示しません。理由を書いておきます。加熱した魚を袋に入れたまま冷蔵する状態は、酸素の少ない環境になります。魚介類では非タンパク分解型のボツリヌス菌(E型など)が関わることがあり、この菌が増え始める温度は3.3℃とされています。米国FDAの水産物ガイダンスは、減圧包装した製品をこの温度未満で保つよう求めています。家庭の冷蔵庫をそこまで管理するのは現実的ではないため、魚については冷蔵での日数の目安を出しません。

加熱した魚は、急冷してその日に食べきってください。日を置いて食べたい場合は、急冷したあと冷蔵ではなく冷凍へ回します。凍っている間はこの菌も増えません。空気をしっかり抜いて冷凍したいときは、真空パック器(BONIQ Vacuumer)を使うと状態が安定します。

40℃前後で温めた生食用の魚は、冷凍もできません。氷水で急冷して、そのまま盛り付けて食べてください。

そして、加熱不足に気づいた場合の扱いです。直後に気づいて常温放置がなかった場合は、中心まで直ちに再加熱します。ttguide P.4は、再加熱の前に芯温が10℃以上になったもの、製造年月日が不明なものは破棄する、としています。時間や温度の履歴が分からない場合、長時間常温に置いてしまった場合は、再加熱で救済せず廃棄してください。

生の魚を扱った手、まな板、包丁、トングは、加熱後の魚に触れる前に洗ってください。生食用と加熱後用で器具を分けるのがいちばん簡単です。

魚の表示とアニサキスの冷凍処理の確認から調理方法を選ぶ判断フロー
図4:最初に「生食用・刺身用」かを確認し、次にアニサキス対策の冷凍履歴を確認します。表示と履歴が分からない魚は、60℃以上の行へ進みます。

実際の手順

買い物から仕上げまで、6つのステップに整理します。

  1. 表示を見ます。「生食用」「刺身用」なら40℃前後の加温ができます。「生」「加熱用」、または表示がないものは加熱用として扱います。
  2. 買ったらすぐ冷蔵庫へ入れます。調理の直前に真水(流水)でよく洗い、水気を拭きます。腸炎ビブリオは真水に弱いため、これは基本となる予防策です。
  3. アニサキス対策の冷凍(マイナス20℃で24時間以上)が確認できるかを見ます。分からなければ、60℃以上の行を使うと決めます。
  4. いちばん厚い部分を測ります。重さではなく厚みです。魚の表で、設定温度と厚みの交点にある合計時間を読みます。ヒラメと二枚貝は、魚表を使いません。
  5. 耐熱袋に入れ、空気を抜いて密封します。設定温度に達してから袋を湯せんに入れ、表の合計時間を計ります。全体が湯に浸かるようにします。40℃前後の加温は、冷蔵庫から出してすぐ入れ、30分を超えないようにします。
  6. 取り出したら袋ごと氷水に浸けて急冷します。加熱用として基準表で火を通したものは、その日に食べきるか、冷凍へ回します。40℃で温めた生食用の魚は、急冷したらそのまま盛り付けて食べます。保存はできません。

低温調理器を選ぶところから始めたい方は、BONIQ公式ストアに本体と耐熱袋、真空パック器をまとめています。

よくある質問

Q. 40℃のサーモンは、殺菌されているのですか?

A. されていません。40℃前後は食感を変えるための加温で、殺菌でも寄生虫対策でもありません。生食用として売られているサーモンを使い、冷蔵庫から出してすぐ40〜43℃の湯せんに入れ、BONIQ独自の運用上限として最大30分までにしてください。温め終わったら袋ごと氷水で急冷して、刺身と同じように冷えた状態で、そのまますぐに食べてください。保存や作り置きはできません。火を通したい場合は、魚の加熱時間基準表で60℃以上の行を選んでください。

Q. 「生食用」と書いてあれば、アニサキスの冷凍処理は済んでいるのですか?

A. 済んでいるとは限りません。日本の「生食用」の表示は、腸炎ビブリオの成分規格や10℃以下という保存基準を含む、生食用の衛生条件を満たしているという意味です。この10℃以下という保存基準は凍結していない生食用鮮魚介類についての規定で、冷凍品には別の規格が適用されます。生で食べることを意図した表示であって、すべての病原体がいないことの保証ではありません。厚生労働省が示すアニサキス対策の冷凍(マイナス20℃で24時間以上)が完了していることを示す表示でもありません。アニサキス対策として冷凍を数えたい場合は、処理の有無を別に確認してください。分からない場合は、魚表の60℃以上の行で加熱してください。

Q. 加熱用の切り身を40℃で温めてもよいですか?

A. 使わないでください。加熱用や表示のない魚は、生で食べる前提で流通していません。40℃では殺菌も寄生虫対策もできず、細菌が増えやすい温度帯に長く置くことになります。加熱用の魚は、魚の加熱時間基準表で最大厚みに対応する合計時間を守ってください。

Q. しめ鯖やわさび醤油では、アニサキスは死なないのですか?

A. 死にません。厚生労働省は、一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しないと明記しています。有効なのは加熱(70℃以上、または60℃なら1分)と冷凍(マイナス20℃で24時間以上)です。あわせて、目視で確認して幼虫を除去すること、丸ごと1匹で買ったら速やかに内臓を取り除くこと、内臓を生で食べないことも案内されています。

Q. 魚を55℃で4時間20分も入れるのは、危険ではないですか?

A. 表の構造を見ると、危険とは逆の読み方になります。厚さ2cmの55℃の合計4時間20分のうち、3時間30分は芯温保持、つまり表が殺菌のために確保している時間です。長いのは、その温度で必要な時間を確保しているからです。ただしこの行は、アニサキス対策が冷凍で済んでいる魚に使う行です。対策が分からない魚では、55℃ではなく60℃以上を選んでください。

Q. 高齢者や子ども、妊娠中の方に出すときは、どうすればよいですか?

A. まず、生食(40℃前後の加温)は選ばないでください。魚は加熱用として扱い、中心まで十分に加熱してください。本記事では、高齢者、子ども、妊娠中の方、免疫機能が低下している方に対して、特定の低温と時間の組み合わせを一律に安全とは案内しません。食材の表示と魚種ごとの公的条件を確認し、魚の加熱時間基準表を使う場合は、最大厚みに対応する合計時間を守ってください。

ヒラメはクドアのため中心75℃で5分以上、二枚貝はノロウイルスのため中心85〜90℃で90秒以上が公的な条件で、どちらも魚の加熱時間基準表の対象外です。この2つは、体力の弱い方に出す場面では避けてください。医師や公的機関から個別の指示がある場合は、そちらを優先してください。

Q. 加熱したあと、どのくらい保存できますか?

A. まず加熱直後に袋ごと氷水で急冷し、30分以内に中心20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げてください。そのうえで、魚については冷蔵での日数の目安を示していません。袋に入れたまま冷蔵する状態は酸素の少ない環境になり、魚介類で問題になる非タンパク分解型のボツリヌス菌(E型など)は3.3℃から増えるとされているためです。米国FDAの水産物ガイダンスは、減圧包装した製品をこの温度未満で保つよう求めています。家庭の冷蔵庫でそこまで管理するのは現実的ではありません。加熱した魚は急冷してその日に食べきり、日を置くなら冷蔵ではなく冷凍へ回してください。40℃前後で温めた生食用の魚は、冷蔵も冷凍もできません。急冷して、そのまま食べきってください。

Q. ヒラメやホタルイカも、魚の表でよいのですか?

A. 違う条件になります。ヒラメはクドア・セプテンプンクタータのため、魚表の対象外です。公的な条件は中心温度75℃で5分以上の加熱、またはマイナス20℃で4時間以上の冷凍です。この記事ではヒラメの設定温度を案内していません。湯せんの温度は中心温度が近づく上限にあたるため、75℃設定では条件に対する余裕がほとんど残らないからです。ホタルイカ、スケトウダラ、ハタハタ、スルメイカは旋尾線虫のため、冷凍で対策するならマイナス30℃で4日間以上が必要です。アニサキスの冷凍条件では足りません。加熱で対応するなら、魚表の60℃以上の行を使ってください。牡蠣などの二枚貝は、そもそも魚表の対象外で、ノロウイルスの条件は中心85〜90℃で90秒以上です。

おわりに

魚の低温調理は、肉より一段だけ複雑です。生で食べられる魚がある、というただ一点のために、軸が2本になります。

けれど、覚えることは多くありません。表示を見て、生食用なら40℃前後で温めて急冷し、そのまますぐに食べます。それ以外は厚みを測って基準表を引きます。アニサキス対策が分からなければ、60℃以上の行にします。ヒラメと二枚貝だけは別の条件を使います。この4つで、ほとんどの場面が通ります。

低温調理の価値は、感覚を数値に置き換えられることだと思っています。「新鮮だから大丈夫」「よく焼けているように見える」という判断を、食材区分と厚みと温度と時間に置き換える。理屈をすべて理解していなくても、表を引けば同じ結果が出る。そこが、勘の火入れとの違いです。

魚は、その恩恵がいちばん分かりやすい食材でもあります。45℃を超えると締まっていく身を、狙った温度で止められます。今日は刺身の食感を変える、明日はふっくら火を通す。同じ切り身で、両方を選べるようになります。

魚を日々のたんぱく質源として組み込む量の考え方は、1食20gのたんぱく質を低温調理で整える方法にまとめています。

条件を外せば、どの調理法も危険です。守れば、魚はいちばん低温調理が似合う食材のひとつになります。表示を見て、厚みを測るところから始めてください。

関連レシピ

まず、この記事の前半で触れた生食用の魚の加温がこちらです。

  • 43℃ 基本の低温調理サーモン:生を超えた食感 — 生食用のアトランティックサーモン柵を43℃で30分。BONIQが「飲めるサーモン®」と呼ぶ仕上がりです。急冷までが手順に入っていて、ページにも「本レシピは『生食』となりますので、保存ができません」と明記されています

以下は加熱用の魚です。いずれも、公開ページの設定温度・時間が魚の加熱時間基準表のセルと一致していることを確認したレシピです。前半2本は、この記事で案内した「迷ったら60℃以上」の行にあたります。

参考にした資料

【リクエスト随時募集中!】「こんなレシピ欲しい!」リクエスト投稿








【注意】
低温調理では高温による殺菌ができないため、食の安全に留意する必要があります。
レシピ記載の温度・時間設定をご参考いただき、例として大きく温度設定を変更するなどはされないようご注意ください。
なお、レシピ記載の設定をお守りいただいた上であっても、食材や調理環境などによっても安全面のリスクが異なるため、最終的には自己責任となりますことご了承ください。
取扱説明書や低温調理ガイドブック、各種の低温調理における情報などをご覧いただいた上で、安全に配慮した調理をお願いいたします。詳細はこちらの【低温調理のルール 〜6つのポイント〜】を参照くださいませ。


また食中毒に関して、下記のサイトもご一読ください。
特にお年寄りやお子様、免疫力の弱っている方は当サイト推奨温度設定に従わずに、下記厚生労働省サイトの指示に従い全てのお肉で【中心温度75℃ 1分以上】の加熱をしてください。
→ 食肉に関する注意点:厚生労働省 食中毒予防

The following two tabs change content below.
Kazuhiro HADA

Kazuhiro HADA

【低温調理器BONIQ ブランドオーナー】 「今日の食事が明日のカラダです!」をモットーに、低温調理で栄養バランス改善を推進してます。BONIQは健康調理器具です! 美味い食事を食べながら健康的でスタイリッシュなライフスタイルを皆さんと一緒に目指したいです。

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事