豚肉・ジビエの低温調理は安全?E型肝炎ウイルスを前提に、61℃以上で設計する理由

「豚は、しっかり火を通さないと危ない」。
これは正しいです。ただし、その「しっかり」が何℃で何分なのかを説明できる人は、意外なほど少ないです。

結論から言います。豚肉もジビエも、低温調理で安全に仕上げられます。ただし牛肉のようにレアで食べる選択肢はなく、条件の引き方も鶏肉とは違います。BONIQの加熱時間基準表(ttguide)は、豚肉とジビエを同じ一枚の表で扱い、その下限を61℃に置いています。理由は、この食材で警戒すべき相手が細菌ではなく、筋肉の内部にいるE型肝炎ウイルスだからです。

本記事では、豚とジビエの安全設計が「61℃以上」から始まる理由と、厚生労働省が定める基準との関係を整理します。低温調理全体の安全性の考え方は「低温調理は危ない」は本当かに、鶏肉の設計思想は鶏むね肉の低温調理は安全?にまとめています。

編集・安全基準照合:BONIQ(2026年8月21日)

この記事の要点(先に結論)

  • 豚肉は、2015年6月12日から食品衛生法の基準で生食用としての提供が禁止されています。飲食店で「レアの豚」が出てこないのは、好みの問題ではなく法的な基準によるものです。
  • その基準は「中心部の温度を63℃で30分間以上加熱するか、これと同等以上」。厚生労働省は、75℃1分以上の加熱もこれと同等として差し支えないとしています。
  • BONIQの豚肉・ジビエ表は、この「63℃30分または同等以上」を温度ごとに算出したもの。表の下限が61℃なのは、60℃以下がE型肝炎ウイルスの感染リスクがある温度帯とされているためです。
  • 加熱時間は厚みで決まります。初期温度5℃・厚さ2cmなら、61℃で2時間10分、63℃で1時間20分(ttguide豚肉・ジビエ表)。
  • ジビエは豚と同じ表を使いますが、リスクは豚+αで考えます。住肉胞子虫やトリヒナ(旋毛虫)といった、加熱以外に手立てのない相手が加わります。厚生労働省がジビエ向けに示す同等条件は65℃15分までなので、表の低い温度側は処理履歴の確かな肉に限ります。
  • 表が対象にしているのは筋肉の部位。豚レバーも法的には同じ63℃30分基準ですが、ウイルスが集積する臓器で検出率が高く、表の61〜63℃はこのウイルスを不活化したと確認された温度でもないため、低温調理には向きません。厚みが測りにくい点そのものは、厚い側の行を選べば安全側に丸められるので理由になりません。脂肪を多く含む自家製パテは62℃120分でも感染力が残った報告があり、明確に表の外になります。

なぜ豚は「生で食べてはいけない」と決められたのか

豚肉の扱いは、2015年6月12日を境に変わりました。この日から、食品衛生法に基づく豚の食肉の規格基準が適用され、生食用としての販売・提供が法的に禁止されています。対象は内臓も含む、食用にするすべての豚の食肉です。

厚生労働省が理由として挙げているのは、次の3点です。飲食店で生食提供の実態があったこと。E型肝炎ウイルス、食中毒菌、寄生虫が豚の血液やレバー等から検出されていること。そして——ここが最も重要なのですが——E型肝炎ウイルスや寄生虫は「内部汚染」であり、内部までの加熱以外にリスクを下げる手立てが考えられないことです。

内部汚染、という言葉の意味を押さえておきましょう。牛の塊肉であれば、汚染は主に表面にあります。だから表面を高温で焼くという発想が一応は成り立つ(それでも表面焼きは中心加熱の代わりにはならないが)。ところが豚のE型肝炎ウイルスは、筋肉そのものの中にいる可能性があります。表面をどれだけ焼いても、中心に届かなければ意味がありません。

「新鮮だから」「銘柄豚だから」「SPF豚だから」も、残念ながら理由になりません。SPF豚とは、豚の発育に影響する特定の病気にかかっていないことが証明された豚のことで、無菌の豚という意味ではありません。厚生労働省も、SPF豚にも同じ基準が適用されること、SPF豚の血清から抗HEV抗体が検出された調査事例があることを明記しています。

BONIQの豚肉・ジビエ表が「61℃」から始まる理由

ここからが、低温調理の話になります。

「豚は63℃30分」と聞くと、多くの人は「では低温調理は無理だ」と考えます。実際は逆です。この基準は温度と時間のセットで書かれており、温度が高くなれば時間は短く、温度が低くなれば時間は長くなります。厚生労働省自身が、63℃30分と75℃1分は同等として扱ってよいと示しています。つまり「63℃30分または同等以上」という条件は、一本の直線ではなく、温度と時間の組み合わせの帯です。

BONIQの豚肉・ジビエ表は、この「同等以上」の部分を温度ごとに算出したものです。ttguideの表にも「表は厚生労働省が推奨している『中心部の温度を63℃で30分間以上加熱するか、これと同等以上』の『同等以上』を算出したものである」と明記されています。牛・ラム肉表がリステリアを、鶏肉表が鶏の対象菌を基準にBONIQが独自に算出しているのに対し、豚肉・ジビエ表だけは公的な食肉基準を出発点にしています。ここが他の食材と決定的に違います。

そして、この表の下限は61℃です。60℃以下の行は存在しません。ttguideは、60℃以下をE型肝炎ウイルス感染のリスクがある温度帯として、61℃以上での調理を推奨すると注記しています。

この線引きには、実験による裏付けがあります。米国立衛生研究所(NIH)のEmersonらは2005年、E型肝炎ウイルスを45℃から70℃までの各温度で1時間加熱し、残った感染力を細胞培養で測定しました。60℃で1時間加熱しても、ウイルス株によって4%から20%が感染力を保っていました。論文の結論は、レアに火を通した肉の中心温度ではE型肝炎ウイルスの一部はおそらく生き残るだろう、というものです。なお、この実験で使われたのは遺伝子型1型・2型のウイルスで、豚や鹿から感染する3型・4型とは別のグループにあたります。試料も糞便の懸濁液で、肉ではありません。それでも、60℃がウイルスの確実に死ぬ温度ではないことを示す根拠にはなります。

つまり61℃という下限は、おいしさの都合で決めた数字ではありません。ウイルスが生き残る側の温度帯を外した、いちばん下の線です。牛肉が55℃から設計され、鶏肉が57℃から設計されているのに、豚だけが61℃から始まるのは、相手が細菌ではなくウイルスだからです。

ただし、61℃や62℃でE型肝炎ウイルスを不活化したという実験報告があるわけではありません。表のこの部分は、厚生労働省の63℃30分を出発点に、BONIQが同等以上になるよう算出した値です。実際、61℃行の芯温保持時間は80分で、63℃行の30分と比べてかなり保守的に振ってあります。

豚肉・ジビエ表が61℃から始まる理由を示すインフォグラフィック
図1:牛・鶏・豚ジビエで、表の下限温度が違う理由。相手にする病原体が違えば、設計の出発点も変わります。

「63℃で30分」は、お湯の設定ではない

加熱不足につながる最大の誤解が、ここにあります。

「中心部の温度を63℃で30分間以上」が意味するのは、食材の中心が63℃に達した状態を30分保つ、ということです。BONIQを63℃に設定して30分入れておく、という意味ではありません。厚みのある肉は、お湯が63℃でも中心が63℃に届くまでに相応の時間がかかります。この昇温のタイムラグを勘定に入れないまま「63℃で30分やったから大丈夫」と考えると、中心の保持時間はまったく足りていないことになります。

BONIQの加熱時間基準表が便利なのは、この2つを合算した数字を載せている点にあります。表の時間は、中心が設定温度に達するまでの時間と、殺菌に必要な芯温保持時間の合計です。厚みを測って表を引けば、殺菌工学の計算を自分でやらなくても、条件を満たせます。

だから、加熱時間は重さではなく厚みで決まります。同じ400gの豚ロースでも、厚く切るか薄く開くかで、中心に熱が届くまでの時間はまるで違います。調理前に、いちばん厚い部分を測ります。これが出発点になります。

お湯の設定温度と食材の中心温度は別物であることを示す図解
図2:表の時間は「中心到達までの時間」+「芯温保持の時間」。設定温度で数える時間ではありません。

管理していない火入れと、数値で管理する火入れ

豚肉は、火を通しすぎればパサつき、通し足りなければ不安が残ります。しかも豚の場合、「不安が残る」の中身が牛とは違います。

管理項目 管理していない状態 数値で管理する状態
最大厚み 重さや見た目で判断する いちばん厚い部分を実測する
中心温度 焼き色や肉汁の色から推測する 基準表または芯温計で確認する
保持時間 加熱を始めた時点から数える 中心が到達してからの必要時間を確保する
加熱後 室温に置いたままにする すぐ食べるか、袋ごと氷水で急冷する

低温調理の価値は、器具の優劣ではなく、この4つを数値で押さえられることにあります。感覚で「もう大丈夫だろう」と判断していた工程を、厚み・温度・時間という確認できる形に置き換えます。それだけで、豚は扱いやすい食材になります。

実践:ttguide豚肉・ジビエ表の引き方

豚肉・ジビエ表から、代表的な3つの温度を抜き出す(初期温度5℃・冷蔵庫から出したての食材が前提)。時間はいずれも、中心到達と殺菌保持を合算した合計値です。

最大厚み 61℃ 63℃ 65℃
1.0cm 1時間35分 50分 40分
1.5cm 1時間55分 1時間05分 55分
2.0cm 2時間10分 1時間20分 1時間10分
2.5cm 2時間35分 1時間45分 1時間35分
3.0cm 2時間50分 2時間00分 1時間50分
3.5cm 3時間20分 2時間30分 2時間20分
4.0cm 3時間50分 3時間00分 2時間50分

(出典:BONIQ 低温調理 加熱時間基準表 P.3 豚肉・ジビエ表。表には0.5cmから5.5cmまで、61℃から70℃までの全条件が載っている)

豚ロース61℃・63℃・65℃の最大厚み別合計加熱時間の比較グラフ
図3:温度が2℃違えば、必要な時間は大きく変わります。厚み4cmの61℃と63℃では50分の差があります。

厚みが表の右端(5.5cm)を超える場合は、表ではなく芯温計を使い、中心温度を測りながら加熱します。

逆に、形がいびつで最大厚みを一点に決めにくいときは、実測より厚い行を選んでください。表の時間は中心到達時間と芯温保持時間の合計なので、厚い行ほど長く、安全側に外れます。実測3cmの塊に4cmの行を当てても、条件を下回ることはありません。丸めて損をするのは食感であって、安全性ではありません。ただしこれは、厚みを測れる筋肉の部位での話です。レバーが表の外にあるのは厚みが理由ではなく、別のところに理由があります(後述)。

なお、この表はE型肝炎ウイルスと食中毒菌を前提に、健康な成人が食べることを想定した条件です。高齢者、子ども、妊娠中の方、免疫が落ちている方に出すなら、温度を選ぶ段階から中心75℃1分以上に切り替えてください。

手順の要点は4つです。

  1. 交差汚染を防ぎます。豚の生肉に触れた手・包丁・まな板から、サラダや加熱後の食材へ菌が移る経路は現実に起きています。厚生労働省も、加熱前後で調理器具を使い分けるよう案内しています。生肉用と加熱後用のまな板・トングを分け、調理の前後に手指を洗い、ドリップを他の食材につけません。
  2. 最大厚みを測ります。ものさしで、いちばん厚い部分を測ります。重さでは決まりません。
  3. 耐熱袋の空気を抜き、全体を湯に沈めます。袋が浮くと加熱ムラの原因になります。空気抜きを安定させたいときや作り置きをするときは、真空パック器(BONIQ Vacuumer)を使うと確実です。
  4. 冷却まで設計します。すぐ食べないなら、袋ごと氷水に浸けて急冷します。目安は30分以内に中心20℃付近、または60分以内に10℃付近。清潔な未開封の耐熱袋のまま5℃以下で、冷蔵3日・冷凍1ヶ月が保存の目安になります。

ひき肉、成形肉、筋切りやタレ漬けをした肉も、低温調理から除外する必要はありません。これらは表面の汚染が内部まで運ばれている可能性があるため「表面だけ焼けばよい」とは考えない、というだけのことです。BONIQの基準表は中心まで加熱する前提で作られているので、成形後の最大厚みで表を引き、合計時間を満たせば大丈夫です。豚こま切れ肉で作るプルドポークが63℃50分で成立するのも、こま切れを寄せた状態の厚みが表の1cmに収まっているからで、こま切れだから短くていいという話ではありません。

BONIQのレシピは、この表から時間を引いて組み立てられています。たとえば豚ロースの黒酢バルサミコ照り焼きの設定は61℃・2時間10分ですが、これは豚肉・ジビエ表の61℃・厚さ2cmの行そのものです。塊で作る煮豚(麹3種漬け)は63℃・3時間30分、自家製チャーシューは63℃・4時間と、厚みが増えるぶん時間が伸びています。レシピの時間は経験則ではなく、表を引いた結果です。

ジビエは「豚と同じ表、プラスα のリスク」で考える

BONIQが豚とジビエを一枚の表にまとめているのは、どちらもE型肝炎ウイルスを前提に設計するからです。実際、E型肝炎の食中毒事例には、冷凍の生シカ肉や野生イノシシの肉・肝臓によるものが記録されています。

ただし、鹿や猪を扱うときは、豚と同じでは済まない部分があります。厚生労働省の「ジビエの衛生管理のための手引書」によれば、徳島県産ジビエの調査で住肉胞子虫が筋肉から検出された割合は、イノシシで70.7%、シカで88.2%でした。住肉胞子虫は加熱が不十分だと、食後4〜8時間で下痢や嘔吐を起こすことがあります。加えて、クマ肉のローストによるトリヒナ(旋毛虫)の集団事例、シカの生肉による腸管出血性大腸菌の事例も報告されています。

これらに共通するのは、E型肝炎ウイルスと同じく筋肉の中にいるということです。手引書も、E型肝炎や住肉胞子虫は筋肉内に病原体が存在しており、十分に加熱しなければ死滅しない、と明記しています。衛生的に処理された肉であっても、生食や加熱不足はリスクを高めます。ジビエを「低温でしっとり」の題材にしない理由は、ここにあります。

公的な条件も、豚とは表現が異なります。野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針では、中心部の温度が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の加熱が定められています。手引書はその同等条件として、次の組み合わせを示しています。

中心温度 必要な保持時間(公的な同等条件)
75℃ 1分
70℃ 3分
69℃ 4分
68℃ 5分
67℃ 8分
66℃ 11分
65℃ 15分

(出典:厚生労働省「ジビエの衛生管理のための手引書」/参照:厚生労働省「野生鳥獣肉(ジビエ)に関するQ&A」)

75℃1分と63℃30分は、厚生労働省が豚の基準の中で同等として扱っている条件です。BONIQの豚肉・ジビエ表は、その63℃30分の「同等以上」を算出したもので、ジビエもこの一枚の表で扱います。鹿でも猪でも、最大厚みを測って対応する合計時間を守る、という手順は豚と変わりません。

ただし、押さえておいてほしい前提があります。上の同等条件表を見ると分かるとおり、厚生労働省がジビエ向けに示しているのは65℃15分までで、それより低い温度の条件は示されていません。BONIQの表の61℃・62℃といった行は、豚の基準を出発点にBONIQが算出したもので、住肉胞子虫や旋毛虫を評価に入れて作られた数字ではありません。この2つは加熱以外に手立てがないので、処理履歴のはっきりしないジビエを低い温度側で扱うことは勧めません。表の中でどの温度を選ぶかは、その肉の素性をどこまで確認できているかで決めてください。

変わるのは、その前後の扱いのほうです。野生鳥獣肉に使うまな板・包丁・トングは専用にし、使用後に洗浄・消毒します。仕留めた個体の処理履歴や解体環境が分からない肉は、加熱条件以前の問題として扱いません。そして、生食や「表面だけ炙る」という選択肢は、豚以上に取りません。

レバーと自家製パテは、同じようには考えない

BONIQの豚肉・ジビエ表が想定しているのは、ロースやモモといった筋肉の部位です。レバーはどうなのか、という疑問が当然出てきます。

まず制度の話をすると、厚生労働省の基準は「食用にする全ての豚の食肉(内臓を含む)」が対象なので、豚レバーにも同じ「中心部63℃30分以上、またはこれと同等以上」が適用されます。法的な線引きとして、レバーだけが別扱いになっているわけではありません。

それでも、レバーを低温調理の題材にすることは勧めません。理由は2つあります。

ひとつは、レバーがE型肝炎の疫学の中心にいることです。北海道で市販されていた包装済みの豚生レバー363検体を調べた調査では、7検体(1.9%)からHEV遺伝子が検出され、そのうち1件は同地域の患者から分離されたウイルスと遺伝子配列が100%一致しました。同じ報告で、E型肝炎を発症した患者10人のうち9人に、発症前2〜8週のあいだに焼いた、あるいは生(非加熱)の豚レバーを食べた経験がありました。熊本県のと畜場で行われた別の調査では、廃棄された肝臓183検体のうち11検体(6.0%)からHEV遺伝子が検出されています。汚染率そのものが極端に高いわけではありませんが、実際に人が感染してきた経路はレバーに集中しています。

ここで、当然の疑問が出てきます。レバーは形が不定形で厚みが場所ごとに変わるが、それなら実測3cmの塊に5.5cmの行を当てればいいのではないか、という考え方です。

これは、原理としては正しいです。表の時間は中心到達時間と芯温保持時間の合計なので、厚い側の行を選べば中心到達は必ず間に合います。厚みが測りにくい食材を安全側に丸めるのは、低温調理の正しい運用であって、抜け道ではありません。

だから、レバーを表から外す理由は厚みではありません。厚みを丸めても動かないものが、その先にあります。

加熱でウイルスや菌が減る速さは、元の量に比例します。同じ温度・同じ時間を当てても、最初に多くいれば、残る量も多くなります。レバーはHEVが増殖する臓器そのもので、上に挙げたとおり検出率も筋肉より高い側にいます。ロースと同じ条件を当てて、同じ安全余裕にはなりません。

そして、これが2つめの理由になります。表の61℃から63℃という帯は、厚生労働省の63℃30分を出発点にBONIQが算出した制度上の線であって、この温度でE型肝炎ウイルスがどれだけ減るのかを測った実験報告があるわけではありません。60℃で1時間加熱しても一部が感染力を保っていたことは、先に見たとおりです。減る速さが分かっていないものは、時間を延ばせば足りるという計算も立てられません。筋肉の部位でこの温度帯を使えるのは、法的な基準がそう定めているからであり、ウイルスが入っている確率がもともと低いからでもあります。レバーはその両方の前提から外れています。

豚レバーを食べるなら、中心部が白っぽく変わるまで、公的案内の中心75℃1分以上を目安にしっかり火を通します。これが確実な線になります。

自家製のパテやリエット、レバーソーセージは、さらにはっきりと表の外にあります。理由が変わって、脂肪です。フランス国立獣医学校とAnses(食品環境労働衛生安全庁)の研究チームは2012年、E型肝炎ウイルスに感染した豚レバーに脂肪を48%加えたパテを作り、62℃・68℃・71℃で加熱したうえで、残った感染力を豚への接種で確かめました。62℃で120分加熱した試料でも、接種した4頭のうち3頭が感染しました。完全に不活化できたのは、71℃で20分加熱した条件だけでした。論文は、脂肪が保護的に働いてウイルスの耐熱性を高めていると考察しています。実際、豚レバーを30%ほど含むフランスの生ソーセージ「フィガテル」は、E型肝炎の感染源になった可能性が複数の事例で指摘されています。欧州食品安全機関(EFSA)も2017年の見解で、熱の効き方は遺伝子型と食材のマトリクスによって変わると述べています。

なお、鶏レバーはE型肝炎とは別の話になります。鶏が持つトリHEVは、豚やイノシシのHEVとは遺伝子配列の相同性が約50%しかない別属のウイルスで、霊長類への感染実験でも感染は成立せず、ヒトへの感染は確認されていません。ただし安心という意味ではありません。鶏レバーにはカンピロバクターやサルモネラのリスクがあり、生や半生で食べるものではありません。相手が変わるだけで、中心までしっかり加熱するという結論は同じです。

では、ロースやモモといった筋肉の部位はどう考えればいいのか。国立感染症研究所らが2018年に行った研究では、培養液の中のE型肝炎ウイルスは、遺伝子型3型・4型のいずれも65℃を超える5分の加熱で不活化しました。同じ研究で豚の挽き肉を使った実験では、不活化が確認されたのは中心70℃・5分の条件です。ウイルスは食品の中に入ると、それだけ熱が効きにくくなります。この70℃5分は、厚生労働省が75℃1分の同等条件として挙げている70℃3分より長く、公的な条件と矛盾する数字ではありません。

ただし、この研究は63℃30分という組み合わせを肉では試していません。厚生労働省が「63℃30分または同等以上」を基準に据えているのは、食品安全委員会のリスク評価を踏まえた制度上の判断であって、特定の一報の実験条件を写したものではありません。BONIQの表が引き受けているのは、その法的な基準を、厚みごとの時間に翻訳することです。挽き肉や成形肉のように、もともと表面だった部分が内部に入り込む食材では、同じ合計時間を守ったうえで、余裕を持たせたいなら表の中の高い温度側を選ぶという判断もできます。

FAQ:豚肉・ジビエの低温調理でよくある質問

Q. 豚をロゼ色(ピンク)に仕上げるのは危険ですか?

A. 色で判断しないでください、というのが答えになります。豚肉は生食用としての提供が法的に禁止されており、レアを狙うという選択肢はありません。一方で、基準表どおりの温度と時間を満たしていれば、中心にわずかな赤みが残ることはあります。低温では色素タンパク質(ミオグロビン)が完全に変色しきらないためです。厚生労働省が「中心部の色が白っぽく変化すること」を目安として挙げているのは、75℃1分で加熱する場合の簡易的な見分け方であり、中心温度と時間を数値で管理している場合は、食材区分・最大厚み・温度・合計時間で判断します。逆に、色が白ければ安全という判断もできません。

Q. BONIQを63℃に設定して30分入れれば、基準を満たしますか?

A. 満たしません。「63℃で30分」は、食材の中心が63℃に達してから30分保つという意味です。厚みのある肉は、お湯が63℃でも中心が63℃に届くまでに時間がかかります。ttguideの豚肉・ジビエ表は、この中心到達時間と芯温保持時間を合算した値を載せているので、最大厚みに対応する表の時間に従うのが確実です。厚さ2cmなら63℃で1時間20分になります。

Q. なぜ61℃からなのですか。60℃や58℃ではだめですか?

A. BONIQの豚肉・ジビエ表に60℃以下の行がないのは、60℃以下がE型肝炎ウイルス感染のリスクがある温度帯とされているためです(ttguide P.3の注記)。実験でも、60℃で1時間加熱したE型肝炎ウイルスの一部は感染力を保つことが確認されています(Emerson et al., 2005)。61℃・62℃そのものを検証した実験報告はなく、表のこの部分は63℃30分から算出した保守的な値です。牛肉が55℃から、鶏肉が57℃から設計されているのは、それぞれの表が対象にしている病原体が違うからで、他の表の下限を豚に流用することはできません。表にない温度を自分で換算して使わない、というのが低温調理の基本になります。

Q. 豚レバーや鶏レバーも、同じ表で低温調理できますか?

A. どちらも表には乗せません。豚レバーは、厚生労働省の基準では「内臓を含む」豚の食肉として同じ63℃30分以上の対象で、法令上の線引きは筋肉と変わりません。厚みが測りにくい点は、実測より厚い行を選べば安全側に丸められるので、それ自体は乗せない理由になりません。理由は2つあって、レバーはE型肝炎ウイルスが増殖する臓器で検出率が筋肉より高い側にあること、そして表の61〜63℃という帯はこのウイルスを不活化したと確認された温度ではないことです。出発点の量が多い食材を、減り方の分かっていない温度帯に乗せる形になります。中心部が白っぽく変わるまで、75℃1分以上を目安にしっかり加熱してください。自家製のパテやリエットは、脂肪がウイルスを熱から守るため、さらにはっきりと表の外にあります。鶏レバーについては、鶏が持つトリHEVは豚のE型肝炎ウイルスとは別属でヒトへの感染が確認されていないため、E型肝炎の心配はありません。ただしカンピロバクターやサルモネラのリスクがあるので、やはり中心までしっかり加熱します。

Q. 豚と鹿・猪は、本当に同じ表でいいのですか?

A. 同じ表を使います。どちらもE型肝炎ウイルスを前提に設計されているためです。公的な指針はジビエに中心75℃1分以上(またはこれと同等以上)を定めており、厚生労働省は豚の基準の中で75℃1分と63℃30分を同等として扱っています。BONIQの豚肉・ジビエ表はその63℃30分の同等条件を算出したものなので、引き方は豚と変わりません。ただし、厚生労働省がジビエ向けに示している同等条件は65℃15分までで、それより低い温度については、ジビエ固有の寄生虫を含めた評価がされているわけではありません。表の61℃・62℃といった行を選ぶなら、処理履歴のはっきりした肉に限ってください。違いが大きく出るのは、加熱条件よりもその周辺です。ジビエには住肉胞子虫やトリヒナなど、加熱以外に対処法のない寄生虫のリスクが加わるため、専用器具の使用、洗浄・消毒、処理履歴の確認を、豚以上に徹底します。

Q. ジビエ料理店ではロゼで出てきます。そこまで厳しくしなくてもよいのでは?

A. 「事故を聞かない」と「起きていない」は同じではない、というのが答えになります。野生鳥獣肉の摂食による食中毒として自治体から厚生労働省に報告された件数は、1996年から2019年までの24年間で11件です。たしかに少ないです。一方、感染症発生動向調査によるE型肝炎の届出は、2010年前後の年間60件前後から増え続け、2023年は552件、2024年は527件になっています。増加には検査法が広まった影響も含まれるため、感染そのものが同じだけ増えたとは読めません。それでも、年間500件規模の届出がある一方で食中毒として捕捉されるのは24年で11件、という差は残ります。この差の理由を、食品安全委員会のリスクプロファイルはこう説明しています。E型肝炎は潜伏期間が平均6週間と一般的な食中毒に比べて長く、食品との関連の把握が困難である、と。6週間後に黄疸が出て内科にかかった人が、6週間前の一皿を保健所へ届け出る経路は、現実にはほとんどありません。食中毒統計はその場で結びつくものを数える仕組みなので、E型肝炎はもともと乗りにくいのです。制度にも差があります。豚は食品衛生法の規格基準で生食用としての提供が禁止されているが、ジビエに規格基準はなく、あるのは野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)です。その指針が求めているのは中心75℃1分以上で、生食での提供はしないよう明記されています。公的な要求水準はジビエのほうが高いのに、強制力は豚のほうが強い、という非対称があります。店ごとに扱いが違って見えるのは、基準が緩いからではなく、ここに理由があります。家庭で作るなら、処理履歴のはっきりした肉を選び、厚みと時間を実際に測って管理してください。

Q. 「75℃1分」でなければ安全ではないのでは?

A. 75℃1分だけが正しく、63℃30分は不十分、ということではありません。厚生労働省は豚の食肉の基準に関するQ&Aの中で、63℃30分以上と同等以上の殺菌効果を持つ方法として、たとえば75℃1分以上の加熱でも差し支えないと明示しています。加熱温度が高くなれば必要な時間は短くなる、という関係です。そのうえでBONIQの現行基準表は、お年寄り・子ども・免疫力が低下している方には、厚生労働省の案内に従って全食肉を中心75℃1分以上とするよう案内しています。これは温度と時間の等価性を否定するものではなく、家庭での誤差の余地を小さくするための安全側の運用です。妊娠中を含め、個別に医師や公的機関から指示がある場合はそちらを優先してください。

Q. 銘柄豚やSPF豚なら、少し軽い加熱でも大丈夫ですか?

A. 変わりません。SPF豚は、豚の発育に大きく影響する病気にかかっていないことが証明された豚であって、無菌の豚ではありません。厚生労働省も、SPF豚にも同じ基準が適用されること、SPF豚の血清から抗HEV抗体が検出された調査事例があることを示しています。品種や育て方に関わらず、中心まで加熱するという条件は同じです。

Q. 作り置きしても大丈夫ですか?

A. 可能ですが、加熱後の急速冷却が前提になります。袋ごと氷水に浸けて一気に冷やし、清潔な未開封の耐熱袋のまま5℃以下で、冷蔵3日・冷凍1ヶ月を目安に使い切ります。ゆっくり冷ますと、菌が増えやすい10〜54℃の温度帯に長くとどまることになります。開封したもの、常温に長く置いたもの、時間と温度の履歴が分からないものには、この目安を適用しません。履歴が不明な食品は、再加熱で救済せず廃棄します。

BONIQ公式ストア

結び:制約が多い食材ほど、数値が効く

豚肉とジビエは、低温調理の中でも制約が多い食材です。レアという選択肢はなく、下限は61℃で、ジビエにはさらに寄生虫が加わります。

ですがその制約は、裏を返せば「守るべき線がはっきりしている」ということでもあります。中心が何℃で、何分保たれたか。厚みは何cmか。この2つを押さえれば、豚ロースもロースト鹿肉も、感覚に頼らずに再現できます。厚生労働省が基準を数値で示し、BONIQがそれを厚み別の時間に翻訳しているのは、そのためです。

まずは、いつも焼いている豚ロースの厚みを測ってみてください。そこから先は、加熱時間基準表(ttguide)が引き受けてくれます。火入れは、勘の世界を離れて、誰もが扱える科学になります。


関連記事:

豚肉の低温調理レシピ(いずれも豚肉・ジビエ表から時間を引いています):

参考資料:

【リクエスト随時募集中!】「こんなレシピ欲しい!」リクエスト投稿








【注意】
低温調理では高温による殺菌ができないため、食の安全に留意する必要があります。
レシピ記載の温度・時間設定をご参考いただき、例として大きく温度設定を変更するなどはされないようご注意ください。
なお、レシピ記載の設定をお守りいただいた上であっても、食材や調理環境などによっても安全面のリスクが異なるため、最終的には自己責任となりますことご了承ください。
取扱説明書や低温調理ガイドブック、各種の低温調理における情報などをご覧いただいた上で、安全に配慮した調理をお願いいたします。詳細はこちらの【低温調理のルール 〜6つのポイント〜】を参照くださいませ。


また食中毒に関して、下記のサイトもご一読ください。
特にお年寄りやお子様、免疫力の弱っている方は当サイト推奨温度設定に従わずに、下記厚生労働省サイトの指示に従い全てのお肉で【中心温度75℃ 1分以上】の加熱をしてください。
→ 食肉に関する注意点:厚生労働省 食中毒予防

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Kazuhiro HADA

Kazuhiro HADA

【低温調理器BONIQ ブランドオーナー】 「今日の食事が明日のカラダです!」をモットーに、低温調理で栄養バランス改善を推進してます。BONIQは健康調理器具です! 美味い食事を食べながら健康的でスタイリッシュなライフスタイルを皆さんと一緒に目指したいです。

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